第22話

馬車に揺られ幾日か。見たこともない豪華な邸に着き、馬車から降ろされる。

事情を説明したら、案内され広すぎるサロンに通されたが、広すぎてまったく落ち着かない。



「手紙を預かってきた。」


目の前に座るこぎれいな美丈夫に、預かった手紙を渡す。


「これは!本当にシルヴィからの手紙だ!!ああ、よかった。無事だったのだな。安否も不明で。今、シルヴィはどんな様子なんだい。」



「俺だってよく知らない。そうだな、見た目はあんたによく似ている。」


美丈夫が嬉しそうに笑う。


「そうだろう、そうだろう。ああ、きっと姉上に似て美人に育っているのだろうな。」



ニコニコしながら手紙を読み進めていく。どれくらい時間がかかっただろう、何度も読み返すのは後にしてほしい。



「さて、私はカミーユ・ミュラー侯爵だ。で、君はこれからどうする?」


何やら空気が変わった目の前の男が切り出す。




「…爵位と力を手入れて来いと言われた。」


「手紙にもそう書いてあったよ。うーん、君はいくつなんだい?」


「18だ。」



「なるほどね。シルヴィの3つ上か。…瀕死の君は救われ、代わりに手紙を隣国まで届けた。対価としては十分。そうは思わないかい?シルヴィの安否がわかったのだから、あとはこっちでどうとでもできる。護衛になる必要はないし、このままこの国で暮らすのなら、生活に困らないように手配するよ。」



正論だし、提案は、断る必要のないくらいの待遇だ。



「…いやだ、約束したんだ。」


「そんなに恩に着なくてもいいと思うけどな。」



恩なのか?



「力はともかく、公爵令嬢の護衛になるにはやっぱり貴族だということが最低ラインだよね。君のその手、真っ黒に染めないと手に入らないよ。」


そんなことは、わかってる。


「君、人を殺したことある?」


「…ある。」


「そっか。じゃあ、うん、いけるかな。それはそうと君、口が悪いね。はは。でも安心するといいよ。君のために私が家庭教師を雇ってやろう。貴族は一日にしてならずだよ。」



優男の雰囲気をまとっていたこの侯爵は、腹黒、いや悪魔だった。



皇室と敵対する貴族の家への潜入、諜報活動、この男のせいで、命の危険などいくらでもあった。体力がつき剣の腕前が上がると当然のように戦場に投げ込まれた。



来る日も来る日も剣を振り、人を殺し、血の匂いがする場所で飯を食う。正気なんて保てない。いっそ狂ってしまったら。


俺は、なんでこんなことしてるんだ。選択を間違えたか?いや、あの女だ、俺をこんな目にあわせているのは。



…くく。あーははは。そうだった、毎日思い出し、毎日恨んでやる。記憶に残せばいいんだろ?待っていろよ、爵位をふんだくってお前の目の前に…必ず帰ってやるからな!




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