第2話 「相変わらずちっせーなー」
「たっだいまー!!!」
両開きのドアを バーン と勢いよく開け放ち、真っ先に部屋に入って来たのは、天色のポニーテールを揺らした少女。少女に続き先程の軽快な足音の主である4人がぞろぞろと部屋に入ってくる。
(おい、僕は今お前たちの相手をしている暇はないぞ!)
そんな僕の心情などお構いなしに、話したくて仕方がないというように彼女らは喋り始める。コイツらは一度喋りだしたら止まらないのだ。1人、2人ならともかく5人揃えばもう止められない。会話に割って入ることさえできない。そもそもコイツらが一方的に喋っているだけなので、言葉のキャッチボールが成立していない。すなわち会話になっていない。
「ちょっとちょっと!今日の為に頑張って仕事終わらせて来たのに お疲れ とかないのー?」
(疲れてるのはお前だけじゃない!それに今日帰ってくるのは当初の予定通りだろ!そういうのは頑張って終わらせたんじゃなく、予定通りに終わらせたって言うんだよ!)
「んー、やっぱここに来て王サマの顔見ると、帰ってきたって感じするな。ってか王サマ相変わらずちっせーなー、ちゃんと食べてんのか?」
(おっ嬉しいこと言ってくれるじゃん。ってかうるさいよ、たかが1ヶ月で変わるわけないだろ!横にでかくなきゃいいんだよ!体型維持だって大事だろ!小さい小さいって毎回言わないと気がすまないのかよ!)
「たかが1ヶ月で変わるわけないやろ。団長とちゃうんやから。ってかようそんなに元気でいられるなぁ。オレなんかこの部屋入った瞬間からなんや知らんけど どっと疲れがきてしもて せっかく帰ってきたのにこれからまた仕事とか無理やわぁ。」
「まあまあ、この仕事が終わったら休暇が待ってるんだから、もうちょっとだけ頑張ろうよ。それに見知った土地と見知った顔ぶれなんだからちょっとは気が楽なんじゃない?」
「…ただいま。疲れた。」
「只今戻りました。」
とひとの気も知れずやんややんやと彼女らは一方的に騒ぎまくり、気が付くと大分の時間が経ってしまっていた。そんな中ひとしきり騒いで満足したのか、5人のうちの1人、団長と呼ばれていた黒髪赤眼の少年が あっ と思い出したかのようにこう言った。
「そういや王サマ、この後挨拶あるんだろ?時間大丈夫か?そろそろやばいんじゃね?」
この 自分は悪いと思っていない 感じ、さも相手を気遣っているかのような言い方。ほんっといい性格してるよお前、いやお前ら。
「誰のせいだと思ってるんだよ!お前らが変なタイミングで帰って来るからこうなってるんだろうが!僕は!ちょうど!出ていくところだったの!」
と半ば八つ当たりのように返すと、今度は薄浅葱色の長髪を1つに纏めた青年が悪びれもせずに言う。
「それはすまんかったなぁ。でもオレは帰ってきて一番に王様の顔みれてよかったで?せやからこんなに気ぃが抜けておしゃべりしたくなってしもたんや。多分皆もおんなじやと思うで?」
そんなこと言われたらちょっと嬉しくなっちゃうじゃん。許しちゃうじゃん。でも、全部許す訳にはいかないから、まだ少しむすっとした感じを出しつつ返答する。
「まあ、僕も?みんなが無事に帰ってきてくれて良かったと思ってるよ。…じゃあ、僕は先に行ってるから!お前らこそ、ミーティングに遅れないでよね!」
後半を少し早口で言い終えると、早足で部屋を後にする。後ろからアイツらの はーい という声が聞こえたが、これは気のせいではないだろう。きっとニマニマとした表情で言ったに違いない。
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