箱
クライングフリーマン
箱
母は箱に幽閉されている。
白い箱だ。幽閉させたのは、私だ。
ある日、突然立てなくなった。救急車を呼んだ。1か月救急病院入院。
3か月療養型病院入院、3か月特別養護老人施設入所、7か月サ高住入所。1年2か月サ高住入所、3年5か月サ高住入所、1か月救急病院入院・・・そして、無制限療養型病院入院。
病院に通うのは週2回、1回は洗濯物受け渡し、もう1回は15分間面会。
どの施設も「箱」だ。眠り姫の時が多いが、ある時聞かれた。「いつ、帰れるの?」
「帰れない。」「一生ここ?」私は頷くしかなかった。
私は、残酷な、「いばらの道」、いや、「修羅の道」を選んでしまったのだろうか?
母は恨んでいるのではないだろうか?眠っているのは「振り」ではないのか?
あの時、生死を彷徨っている時、そのまま送ってくれたら良かったのに、と思っているのだろうか?
あるとき、「殺してくれ」と言われた。返す言葉はある筈も無い。
介護施設での介護は終った。だが、母の「生」は続く。
病院では、靴下を履かせて貰えない。冷え性なのに。洗濯物は、肌着1枚、タオル1枚、バスタオル2枚。それだけだ。
葛藤は、どこまでも続く。母を殺すことは出来ない。そんな勇気も欲もない。
白い箱。病院。入院して半年位経ってから、新築の建物に大引っ越し。容態変化を気にしていたが、無事に引っ越し、もう10ヶ月。
この建物は、「白亜」の要塞だ。
もうコロナウイルスはいない。少なくとも、収束はしている。マスクはいいが、面会時間制限は永遠だ。どこの病院も同じだと聞いている。
神様仏様は、「最後の試練」を与えた。私には、そう思える。
50歳を過ぎた時、本気で悩んだ。自分は何の為に生きているのだろう、何をする為に生まれて来たのだろう。
私は「時の氏神」なのだ、と思うことにしたら、肩の荷が降りた。
父が交通事故に遭った。父も突然「帰れなくなった」人だ。
父が亡くなる前、私に言った。「おかあちゃんを頼む。他の人間には頼めない。」と。
父が亡くなった時、母は高血圧で療養入院していた。その頃、「天井を見るのが私の仕事だ。」と母は言った。
今は、また「天井を見る仕事」をしている。
箱の中で。白い箱の中で。
まだ、終らない。
―完―
箱 クライングフリーマン @dansan01
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