トリ会えず。〜お友達になった青い鳥さん〜

るるあ

青い鳥さん、また会えたわね。

 

 「……僕のこと、憶えてる?」


 恐る恐る、こちらを伺う貴方。


 「ええ、もちろん!もうすっかり、綺麗な瑠璃色になれたのね……!」


 

 私は彼の美しい瑠璃色の羽根を見て、感動に打ち震えた。



☆★★


 私の大切な物を保管している屋根裏部屋。

 そこにある宝石箱から、瑠璃色の鳥の羽根を見つけた。

 ああ、懐かしい。


 辺境伯家の森で出会った青い鳥さん、今は何色かしら。



 

 私はミチル・ハイディー。

 ハイディー子爵家の末っ子長女です。


 我が家はいわゆる成り上がり子爵。

 人たらしで有名な“商人貴族”ユーゴ准男爵家の5男だったお父様が、国防の要である辺境伯が溺愛するお母様に、立膝王子様スタイルで求婚

 それからは偉い人達の力やお父様の持つ商家の力で、あれよあれよと子爵となったのです。


 母は、年の離れた四人のシスコン脳筋男子たちを兄に持つ、正に辺境伯家の姫でした。まぁ、姫は姫でも姫騎士だけど…。

 “力こそパワー”な辺境で育った母は、女性ながらも武に優れ、男装の麗人だったのだが実は可愛い物や人が大好きで、父はまさに理想の人だったらしいです。

 辺境伯家に商人として出入りしていた父は母と出逢い、その凛々しさに心奪われるが、母は婚約者がいる。父は辺境伯一家に気にいられ、母に淡い恋心を抱きながら、一番の味方でいられる位置をキープしていたとのこと。


 そんな中、母の通う王都の学園で。

 辺境伯家(国防の要)に婿入りする予定だった、南国の第13王子様(人質)による婚約破棄劇場〜ピンク頭を添えて〜的な事がありーの、

 承知しました!それじゃあ我慢辞めます!と思い切って姫騎士、父に逆プロポーズしーの、みんなに祝福されーの、

 嫁ぎーの。

 めでたしめでたし。

 …人質?何のことかしら?

 大丈夫、陛下が何より重用する、国防の要の辺境伯は姫が世界一大切なの。

 過去のことは忘れて。よろしくて?

 

 ……話を戻すと。

 ラブラブな両親は、すぐに3人の息子に恵まれ。その後少し遅れて末っ子の女児―私が生まれました。

 私の兄達は辺境伯側の血が濃かったのか、みんなもれなく脳筋→辺境伯就職希望!!になってしまって。つまり、私が婿を取ってハイディー家を継ぐ事に。

 もちろん、私のお相手は辺境伯家が取り持って下さったそうだ。


 明日は、その婿殿候補さんとのお見合いなので、身辺整理というか……心の整理の為に、淡い思い出を辿っていた。


 コンコン!と開いてる扉を叩く音。

 「……ミチル?今いいか?」


 振り向けば、お父様。

 人払いをしていたので、侍女達は扉前辺りで待機している。この屋根裏部屋の奥には私一人で、思い出の品を整理していた。

 

 「開けっ放しで何を…

 えっ、何だいその魔力紋増し増しの青い羽根は!

 えっ、金の蔦編みの籠に、す、水晶の実!?!他にも…こ、れ、は…求愛…婚約…婚姻…え?んんん!?!」

 

 私の手元の品を見て、呆然とする父。


 「お父様?これは青い鳥さんからの贈り物達だけど……?」

 ちゃんと説明したわよね?

 辺境伯の森の青い鳥さんに、いつも素敵なものをいただくのよって。


 「ミチル、お友達になった、鳥の人?から、こんなに頂いてたのかい……?」


 「そうなのよお父様。青い鳥さんたら、ちっとも会えないのに転移陣でずーっと贈ってくるのよ。こちらは連絡手段がないから、どうしたらいいか判らなくて…。辺境伯様に相談したら、貰っておきなさいとしかおっしゃらないし…。」


 ふぅ。なんてため息出ちゃう。


 えっ?とりあえず青い鳥さんについて、説明して欲しいの?うーん。


 初めて青い鳥さんに出会ったのは、辺境伯領の森。

 兄様たちの後を追いかけて見失い、なんとかたどり着いたのは、黄金花の楽園だった。

 辺り一面咲き誇る花の中、鈍い銀色に見える中に一筋、瑠璃色を思わせる羽を持った、美しい鳥がこちらをじっと見つめていた。


 「なんて美しい鳥さんなの!」

 思わず大きな声が出てしまったけど、鳥さんは怖がるどころか話しかけてきたのだ!


 「僕は、灰色の汚れた鳥だよ。家族の中で僕だけが汚い色なんだ。」


 「いいえ!あなたは灰色じゃないわ、銀色よ!それに、綺麗な瑠璃色が一筋あるじゃない!おしゃれね!」


 「えっ……瑠璃色?」


 「そうよ!きっとあなた、これからその瑠璃色に変わるんだわ!大きくなったら、お洋服を変える鳥さんがいるって私、辺境伯様に教えてもらった事があるもの!」

 確か周辺国の生態?常識?みたいな話をしていた時の聞きかじりだったけど、新しい知識が披露できて嬉しくて、そう答えた気がする。


 鳥さんは私の話を聞いてとっても嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて、その後、ふわっと私の方に飛んできたと思ったら…、

 目の前には、私と同い年くらいの、青銀の髪の男の子がいたのだ!!


 「……僕のこと、どう思う?」

 彼は、鳥さんと同じ声で私を見つめ、そう聞いてきた。

 顔が赤いけど、暑いのかしら?


 そんなことより!!!

 「……あなた、さっきの鳥さんなの?!」


 彼は私をじっと見つめたまま、こっくり、うなずいた。


 「す、すす、すっごーーーい!!!かっこいいーーー!!」

 鳥さんが人間になれるなんて!鳥さん?人間さん?鳥の人さん?とにかく凄すぎる!!!


 私が大興奮で彼を褒めちぎると、すぐ鳥さんに戻って、唯一瑠璃色に変わってる羽を引き抜くと私の髪に挿し込んだ。


 「わっ!痛くない?!大丈夫??」


 「ピィ!」


 「えっ…こ、この羽根、ないとお喋りできないの!?そんな大事なものを渡しちゃ駄目じゃない!!」

 私が涙目で、髪に挿した羽を取ろうとしたけど何故か取れない!!

 悲しくて涙か流れる。

 鳥さんは私の顔まで飛んできで、涙を優しくついばんだ。


 ピィ。《泣かないで》


 「聞こえる…!」

 よく判らないけど、良かった…!!

 安心してわんわん泣いてしまった。

 そうしたら、鳥さんが母様みたいにぎゅってしてよしよし頭を撫でてくれたので、なんだか気が抜けてもっと泣いて。

 なんだかゆらゆらあったかくて。


 《…僕が…青い鳥に……、君を、迎えに……幸せに…する、から……》


 ゆらゆら、ゆらゆら。

 「あっ、貴方様は……南国…、第三……」

 「…貰い受け……認めて……」

 「うちの至宝……婿…」

 「必ず…、……その為に継承権は……」

 「ミチル……気持ちを……」


 辺境伯様?お兄様達??青い鳥さん?

 ケンカはいやだな。

 みんなが幸せに…。

 そういえば、青い鳥は幸せを運ぶのよね?

 だったら、大丈夫かな…?


 何だか夢を見たのかな?

 気がついたら、辺境伯様に抱っこされてた。


 「それからかしら?贈り物がお部屋に届くようになったのよ?」


 何度辺境伯の森に行っても、あの黄金花の楽園に行けないし、贈り物とお手紙届くけど、会えないのよ?

 あれから10年、私ももう思い出から卒業しなくちゃねぇ〜なんて娘は呑気な事を言っている。


 あー、ミチルは、母親の天然をこれでもかと受け継いでいるとはっきり判った。


 はー。なるほどな。

 

 かつて私の妻が、破棄前提の仮婚約を結んでいた南国王族。一応お互い何も無かった事になっているが、あれのせいで婿に来るのではなかったのだな。

 番を探しに諸国を廻ると聞いたが、まさか辺境伯が受け入れていたとは…。まぁ、あの方は人を見る目は素晴らしいから、悔しいが青い鳥君は婿殿として迎える事となる……のはまだ…う……。


 南国は鳥人族の国だ。

 青い鳥が王族の色であり、それ以外は冷遇されるという。うちの婿殿候補は青銀だから苦労したのだろう。

 しかし、ミチルに渡したあの鮮やかな瑠璃色の羽根……王色では?

 ああ、だから“鳥に変化できない出来損ない”の噂を浸透させているのか。

 本気で婿入りするつもりなんだな。

 あぁ〜そうかぁ………。


 ミチル、あんなに悲しそうに“思い出整理”してたし、これは……自覚したら即、婚姻のやつだな……。妻にそっくりな、猪突猛進だもんなぁ〜。



 辺境伯様も、こんな気持ちだったのかな?

後で秘蔵のワイン持参して話し合おう。

 ああそうだ、息子達にも言い聞かせないと、暴走しそうだな…。


 はぁ〜。とりあえず、妻に慰めてもらお。



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