第41話 エピローグ

 総理、お久しぶりです。


「何を言っている。もう私は総理ではない」


 はい、元総理。失礼いたしました。癖とは恐ろしいものでございます。


「元総理か。私ももう現役引退だ。いつかこんな日が来るとは思っていたが名残惜しさを感じる。

 君はどうだ。もう現役ではないのだぞ」


 そうですね、元総理。なんだか違和感を感じます。現役引退です。こんな日がやってまいりました。


「感慨深いな」


 そうですね、元総理。私たちが思い描いた未来に、私たちはたどり着く日が来るのでしょういか。


「分からない。私にはもう分からなくなった。皆の力でここまでやってきたが、世界というものの裏を思い知った。総理になるまでは、そんな事も知りえなかった。

 君にもいろいろと世話になったな。ありがたく思っている」


 ありがたきお言葉です、元総理。私たちにこんな日が来るとは。

 いつの日か、こんな日が来るのではないかと思っていましたが。気分はいつまでも現役です。


「君にとっては、そうだろうな」


 はい、裏という裏を知りました。世界というものは残酷で残悪で。なんて皮肉的な世の中なのでしょう。

 こんな世界で私たちは、あらゆる限りの手を尽くしました。それが正しい選択だったと言い難くもでございます。

 その事に関して私は心苦しく思います。


「そうだな。正しい選択とは一体何だろうな。何が正しくて何が間違いだったのか。今となっては闇の中だ。

 世の中はいつだって、残酷で残悪ではないだろうか」


 元総理、そんな世界で私たちは最善を尽くせたのでしょうか。


「尽くせたとも。いつだって最善な道を選んできた。私はそう信じている。少なくとも、その時にとっては一番の最善策だったのだ。

 そう信じたい」


 それは、単に私たちの都合のいいように政界を動かしただけではないでしょうか。今でも罪悪感が残って仕方がないのです。


「そうだったかもしれないが、それが最善策だったのだ。今更だが私も君も、その時その時で手を汚しながらも、お互い進んできたのだ。

 罪悪感は君のほうが強いだろう。それだけの仕事をやってきたのだ。よく耐えたと思う。ここに敬意を示そう。

 間違いがあったとしても、それはそれで良かった。過去は過去だ。悔やんでも仕方がない。あの時あの選択があったから、今の私たちがいる」


 おっしゃる通りでございます。

 私たちは、その時その時で最善策と思われる最大限の努力をしました。それが良かったのかどうか、今でも判断がつきません。私に言える事は、ただ最善策を尽くした。それだけです。

 結果、Aはこのような国に育ちました。


「あぁ、分かっている。だが、しかし。Aは何とか、その都度その都度に乗り越えたように感じる。良くも悪くも成長したのだ。

 例え、残悪な判断だっただろうとも滅ぶ事なくここまで来た。Zにだって完全に乗っ取られた訳ではない。これは、ある意味での手柄ではないか」


 そうですね、元総理。

 相変わらず、考え方がポジティブでいらっしゃる。元総理のそういうところが私は好きでございます。


「何を言っている。褒めたところで何も出ないがな」


 さようでございますね。

 これかの時代、どのように変わっていくかは、また裏秘書と現役の総理がお決めになっていくのですね。

 私も、もう引退です。長い間、この国の陰で暗躍いたしました。


「ある意味、惨い政界だったかもしれない。それを引き継いでいくのは、これからの世代を担う者たちにかかっている」


 さようでございますね。私たちは激動の時代を進んできました。

 しかし、更にこれからも裏の世界では世間に知られる事なく悪しきやり取りが行われるのでしょうか。

 私たちが行ってきた事が引き継がれるという事は、そういう事でございます。手を汚す者がまた一人また一人と増えてゆく。

 裏側の世界はなんて残酷な世界なのでしょう。


「しかし、本当の裏の裏は誰も知る由もないだろう。当人の気持ちは当人にしか分からない」


 誰も何も知らされず、知らず知らずのうちに事が進んでゆく。

 しかし、今の時代は変わりました。ネットでなんでも調べる事が出来ます。いつの日か秘密が世に出るのではないでしょうか。


「そうだな。ただし、私たちの思いの丈までは通用しない。私たちが事実を語らなければ」


 そうですね、元総理。裏側の私たちの気持ちは私たちしか知りえません。真実が事実であるとも限りません。


「そうだとも。見えている世界だけが事実とは限らない。私たちの行いも私たちの気持ちも。全ては私たちが持っていく。

 そう墓場まで」


 私も、同じ気持ちであります。元総理。過去の出来事はその折々で正しい選択だったと信じております。

 歴史の裏には必ず何かが隠されているものです。私も墓場まで持って行くものは持って行きます。


「君ならば正しい引継ぎをしっかり終えたと信じている。君なら万全だろう。そう心配せずとも時代は移り変わってゆく。これからの流れは、これからの者たちの手で決めてゆくのだ。

 私たちの時代は終わった」


 はい、元総理。ありがたきお言葉。

 元総理もご存じの通り、全てが全て伝えた訳ではございません。墓場まで持ってゆく事実もございます。

 しかし、知らせておくべき限りの事は尽くしました。


「そうか、それでよい。君の判断だ。間違いはないだろう。私たちは、もう身を引いたのだ。後の事は後の者たちに任せよう」


 そうおっしゃっていただけると幸いです。


「あぁ、私も事の限りを尽くした。これでまた歴史の幕が一つ下りる。これから先の未来は世代を担う者たちにかかっている。

 私たちに出来る事はここまでだ。」


 はい、元総理。新しい幕がまた一つ開き、そして閉じていきます。未来を担う次の世代の者たちには、次の世代を担う者たちの手にかかっております。

 私たちはもう見守るしかございません。


「これらは次の世代か。私たちの世代は終わった。

 ご苦労だったな。君には苦労のかけっぱなしだった」


 さようでございますね、元総理。振り返った過去を思うと波乱万丈でした。


「そうだな。私たちも残りの余生を楽しもう」


 はい、元総理。そうですね。私どもが言える事は、日本の明るい未来に希望の光を与える者たちが大勢出てくる事を期待します。


「そうだな。日本の明るい未来に希望の光を」


 では、元総理。日本の未来にご武運を。


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