第19話 平成元年
「輸血性ショックだとしたら年明けまで、いえ、年末前までもお身体がもたないと思われるのだが。これは本格的に、まさかの事態になるのではないか」
はい、総理。かなりの高い確率で年末前かと。陛下のご容態も報道されるほどでございますし。すでに手の施しようがないと思います。
総理、決意は固まりましたか。私は隠すべきことは隠すべきだと思います。私はなんとしてでも事実を隠しすり替えたいと思います。
「そうか。そこまでか。時代の変わり目が、このような形で締めくくられるとは。君の言う通りだ。万が一に備え準備を整えよう」
はい、総理。年明けでございますね。よろしいでしょうか。
「そう、年明けだ。発表はなんとしても年明けだ。年末前などあってはならない。年末前などあってはならないのだ。手はずを整える準備を。もうするしかないだろう」
かしこまりました、総理。確認させていただきます。本当によろしいのですね。
「年明けだ。他にどんな方法があるというのだ。まさかこのような事態になるなど誰が想定できるのだ。
誰もこのような形で幕が下りるとは思ってもみなかった。誰もこんな形で幕を下ろしたくはない。こんな形で幕を下ろしたくなかった。
まさかの陛下が輸血性ショックになるとは思いも及ばなかった。悔しくてたまらない」
総理、私も同じくです。輸血の危険性を知っておきながら、このような事態を招いてしまったことに後悔しても後悔しきれません。
私もです、総理。こんな形で幕を下ろしたくはないです。こんな形で幕を下ろしたくはないのです。
ですが、もう陛下は。陛下はおそらく助かりません。そして、年末前ではです。やはり年末前なのです。近々、山を迎えると思います。私たちのできることは年末に大混乱が起きぬよう事実を隠し年明けにご崩御を知らせることです。
これが今の私たちにできる最善ではないでしょうか。
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