第2話 第一の計画

やっぱり推理小説家としては、それらしいペンネームが必要であろう。

江戸川乱歩の由来を、僕はもちろん知らない。

彼の作品は、テレビドラマでしか見たことないから。

あとは、松本清張とかかな。

杉本濁縮とか、うーん、パッとしない。

ダッシュク、って読みは良いけど。

檜枝汚垂。

ひのえだおたる。

悪くないけど、良くもないな。

だいいち清張さんは、関係ないや。

やっぱり僕らしく、珍保。

木曽川珍保。

いや、矢作川源流が近いんだから、矢作川珍保。

うん。

乱歩さんとリズムが違うのが、良い。

これだ。

侮辱罪にあたるだろうか?

推理小説に必要であろう分かり易い犯罪。

骨子のひとつ、屋台骨。

ようし、この一つ目の犯罪は景気づけ。

どんどん行こうよ、お次はなんだい?

そうそう。

複数の登場人物が要る。

三人称の。

まずは珍保先生。

彼には僕とは別の、推理小説家になってもらおう。

僕みたいに追い詰められる何歩か手前の、このままじゃマズい「気がし始めている」鳴かず飛ばずの推理小説家。

乱歩賞では一次選考を通過出来ずに居る。

ようし、良いぞ。

着想さえあれば、僕はいくらでも書けるんだ。

珍保先生を慕うアマチュア作家。

ペンネー厶は高嶺花。

これも近くの高嶺山から。

たかねやま、なんだけど、たかみねはな。

うん、すごく良いじゃないか!

珍保先生が犯す罪。

それはもちろん、彼女が私的に送って来た原稿からの盗作だ。

その筆力に任せた巧妙な、当事者以外誰も気付かない、しかしあからさまな盗作。

彼女の純粋な美しい作品を薄めて、世俗の汚泥に浸して汚して効率よく組み込んだ、最悪な盗作。

それで珍保先生、乱歩賞を見事に受賞しちゃう。

さあ、そこから動き出す群像、潜む魑魅魍魎。

ああ、しかし、僕にはこのふたり以外の事を書く事が出来ない。

けれども、だから推理小説もどきを書くのが、断然面白くなって来た。

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