第47話 新たな目標➁

 悩みの正体を暴くことはできた。

 これで一歩前進なのだが……。


「参ったな、目標って言われても思いつかねぇや」


 まぁ、それでも今までやってこれていたわけだけど。

 だからと言って、今後も自分の芯がないまま活動をしていれば、いつかガタが来るのは目に見えてる。


「お前、何かやりたいことはないのかよ」


 葛西から素朴な疑問を投げかけられてしまった。

 

 私が配信者としてやりたいこと……何も思いつかないな。

 そもそも、私はなりたくて今の配信業を始めたわけでもない。

 その場のノリで流されて今に至る。


 それでも敢えて何がしたいのかと問われるならば――。


「強いて言えば、借金を返済したいな」

「夢の無いガキだな……」


 誰のせいだよ!

 

 ……いや、コイツ等のせいでもないか。


「そういや私の両親ってどうなったんすか?」


 ふと、自分にも両親なる存在が少し前まで、戸籍上では存在していたことを思い出した。

 私にとって、あれが事実上の親であったかは未だに謎だ。

 

「気になるのか?」

「世間話程度には」

「……ま、お前にとっちゃそんなもんだろうな」


 葛西は少し考える素振りをしてから一言だけ。


「金は回収中だ」

「へー。じゃあ、そっちからも借金は減ってる訳か」

 

 マジで解体してバラ売りされちまったのかは知らないが、少なくとも捕まえて金を回収できてはいるらしい。

 そうなると気になることがある。


「残りの借金て幾らくらいなんですか?」


 数値によっては私の明確なモチベーションの 1つになる。

 その金額を一先ず稼げれば私の命の危険も無くなるわけだし……。

 まぁ、今の収入があったらそれなりのスピードで返済できるだろ。


 そんな平和ボケした皮算用をしていれば、矢崎がニヤリと笑って指を 2本立てる。


「ああ、2,000万か……。それならまだ――」

「あ? 何言ってんだハズレ? ゼロが足りねぇよ」

「……はい?」

「 2億だ」


 ――――なんと仰いましたかこの老骨?


「 2億ってなんだっけ?」

「人間の平均生涯年収ぐらいの金だな」


 ああそうそう、それだ。


「え? 私の今の収入っていくら?」

「今のペースのまま上手くいけば年収3,000万ってとこか? ちなみにウチの年利は15パーセントだから、これだと一生返済できねぇな」

「……もしかして、私の事を一生飼殺す気だな?」

「そうだが?」

「ざけんなよテメ゛ェェェエエエエ‼」

「ダッハッハッハッハ!」

 

 あっぶねぇえええええ! なんで気を抜いてたんだ私は⁈

 なーんも状況が好転してないわ!

 何が登録者55万人だボケ!

 中間目標を達成したところで、私の人生は依然として詰んでますわ‼


 VTuberをする目標が見つからない? 平和ボケも大概にしとけ!

 死ぬ気で金を稼がんと私の人生は借金地獄のまま終わるぞ!

 

「ちくしょ~‼ どうすりゃいいんだよマジで! ちょっと前まで現実を知らずにフワフワしてた自分を殴りてぇ‼」

「まぁ、デケェ山を当てるしかねぇよなぁ?」

「あぁ⁈ 宝くじでも買えってのか⁇」

「ハッ……やれやれ、ようやく気合入ったか。んじゃ、そのデケェ山の話をしようぜハズレェ。こっちはそれを伝えたくて呼び出したんからよぉ」


 そう言う矢崎の顔は見たこともない程にギラついている。

 どうやら、新たな目標は相当な山場になりそうだ。

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