第6話 ルームツアー
「んじゃ、そういうことだからよぉ、携帯使わせてやる代わりにソイツの面倒見てくれや」
なーにが
面倒事を押し付けやがって、ガキのお守してる余裕なんかこっちもないぞ。
まあいい、どうせ何をしても言う事を聞かないなら放置していても同じだ。
部屋の置物として考えるとしよう。
「了解っす。じゃあ早速、携帯お借りしますよ~」
私は返事を待たずにエマの服を弄る。
やはり彼女は何も反応を示さず、ボーッとした顔でどこかを眺めていた。
おっほぉ! これで私もインターネッツの住人に!
と、思いきや携帯は見つからない。
そもそもゴスロリ服にポケットなんぞ付いてないらしい。
エマの着る服に携帯を入れられそうな場所など無かった。
「部屋に置いてきた感じですか……」
「丁度いいからお前の住む場所に案内するか。携帯もそこにあんだろ」
そんなわけで、我が新居のルームツアーが始まった。
「結構広いじゃん! いいっすね!」
私たちが向かった先は配信室からすぐ近場にある一室。
10畳以上はあるだろうか、広々としたワンルームだ。
部屋にあるのはシングルベッドとテーブル。あとは椅子が 1つ。
テーブルの上には例の携帯らしきものが置かれていた。
酒の空き缶だの怪しげな白い粉の入ったビニール袋が床に転がっていることはない。
しっかりと清掃されている綺麗な部屋だ。
「マジでここに住んでいいんですか!?」
思わずテンション爆上げでハゲに確認を取ってしまった。
「テメェはどういう神経してんだ……?」
はて、どういう意味だろうか?
「……これからここで監禁生活が始まるんだぞ? 状況理解してるか?」
「ああ、ここならいつまででも監禁オッケーです。実家に戻るより全然ましっすね」
これは本心だ。
いつ暴れるか分からない両親に怯えて部屋の片隅で過ごした日々を思えば、広い部屋での引きこもり生活なんて天国みたいなもの。
しかもネットまで使えるというのだから好待遇と言っていい。
「あ、飯はどうなるんすか?」
「決まった時間にウチの誰かが持ってくる。それを食え」
「私、ここの子になります!」
三食ネット付きのワンルーム!
わけわかんねぇ同居人はいるけど、マジで最高じゃん!
ハゲは眉を潜めて心底嫌そうな顔で呟いた。
「問題児が増えちまった……」
失礼なハゲだ。
それにしても、これからお世話になる。いつまでもハゲでは私も失礼だろう。
「あの、名前聞いといていいですか? これから長くお世話になるんで」
「長居しようとするんじゃねぇよ…………
ハゲの癖にカッコいい響きの苗字だった。
もう一人のオッサンに視線を送ると、おずおずといった様子で名乗る。
「俺は、
厳つい見た目の割に覇気のないオッサンはすぐに名前を忘れてしまいそうだ。
ちなみに、借金の取り立てで我が家のドアを蹴りつけていた不届き者はコイツだった。
ドアを蹴った不届き者、田村。
よし、覚えられそうだな。
「これから、よろしくお願いします」
私は二人に向かって深くお辞儀をした。
――ここから、私の新たな生活が始まる。
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