白鳥の見切り発車

左原伊純

白鳥の見切り発車

 実家近くの田舎は市役所の周囲が一面田んぼアンド農道という田舎っぷりだ。「市」役所なのに。


 その田んぼには冬になる度に白鳥が来る。白鳥と言えば湖という綺麗なイメージなのに、田んぼに来るのだ。白鳥なのに田んぼの泥のせいで黒くなっていたりする。


 毎年、冬の終わりまでいて、春になる前にロシアかどこかへ飛び立っていく。一体どこへ行っているのか、正確なことは知らない。適当に書いている。


 今年は暖冬だ。普段は人の身長くらい雪が積もるのに、今年はたまに降る程度である。


 電気代や灯油代がかからないのは有り難いが、地球からすれば異常事態なのかもしれない。


 いつもは冬の終わりまでいる白鳥が、急にいなくなった。白鳥に会えなくなったのだ。

 もしかして、もう暖かいから大丈夫だと思って、ロシアかどこかに飛び立っていったのかもしれない。今年の暖冬はやはりイレギュラーだ。


 だが、それで終わりではなかった。暖冬なのに三月に入ってからまた寒くなるという、皆が体調を崩しかねない事態になったら、田んぼに白鳥が戻って来たのだ。


 絶対ロシアに行く途中で予想外の寒さに遭い、戻って来たよね。とりあえず暖かいから飛び立つかという見切り発車だったのだ。寒暖差を舐めてはいけない。


 寒暖差は体調を崩しかねない。私が住む田舎は日本の中でも寒暖差があるほうだ。夏場なんて特に酷く、朝夕と昼間で15度くらい違ったりする。


 寒暖差の話だが、何年も前に大阪に旅行に行った際、串カツ屋のお兄さんにどのくらい寒いのかと聞かれた。


 その時私は思った。

 意外と暖かいのねと思われたくないと。雪国の意地があった。その年の昼間はマイナス6度ほどだった。


 たまたまその時、旅行のために朝4時から車に乗っていたのだが、その際にマイナス17度だったので、「朝4時にマイナス17度でした」と言った。一切嘘は話していない。


「日本なの?」とドン引きされた。マイナス6度と言ったほうがよかったのかなあ。

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