トリあえずナマ

略してトリマ

居酒屋。酒を飲みわちゃわちゃする場所。

「仕事クソだよクソ！ハハハ！ハハハ……」「まぁまぁ飲め飲め！」

そこでは誰もかれもがこういう。

「とりあえず生で」

と。

では誰が最初にこんな事言い出したのだろうか？

もしかしたらこんな事があったのかもしれない……。

「あっこの馬鹿鳥刺し食ってやがる！」

時は昭和の終わりごろ、ビールが普通に居酒屋に出てくるようになったある日のこと。

あるバカが居酒屋でナマの鳥刺しを食って食中毒を起こした事件があった。

モチロン店は風評被害を受けしょんぼりしていた。

「何とかしてこの風評被害取り消せねーかなぁー」

そう考えていた男だが、やはり『トリを生で食った事実』と言うのは消えない訳で。

「やーいトリあえずナマで食わせた店！」

とバカにされていた。こんな事を言われてはビールをぶちまけ客を追っ払っていた。

そんなある日。常連の客が疑問を口に出した。

「なんでビールぶっかけるの？」

「売れねぇから残ってんだ、捨てるのもアレだからムカついてぶっかけてんだ」

「ふーん……。じゃビールくれよ」

「はいよ！しかしどうすっかなぁ……」

そしてその時常連ひらめいた。

「……トリあえずナマって言われたらビールが出るようにすればいいんじゃね？」

「え？」

常連客は注文内容としてビールと注文するのではなく、『とりあえず生』と言うとビールが出てくるようにしてみた。

するとどうだろうか。瞬く間にとりあえず生ビールと言う意味でトリあえずナマは流行った。

これ以降他の店でもとりあえず生って言う単語が流行るようになったんだってさ。知ってたか！？」

「嘘つけ。とりあえず生ビールってのは『面倒くさいからとりあえず生ビールで良いよな？』って誰かが言い始めたのが最初だろうが。大噓付くんじゃねぇよ」

「バレた！？適当言ってるだけだからな！ワハハ！」

「全く……。すみませんから揚げと追加の生一つ」

まぁそんな大嘘はともかく。今日も居酒屋は平和なもんである。