言葉にすると

「んで、どーするの?」


「…………どう、すればいいのでしょうか?」


 流石にあの空気のままあそこにはいられないと、四人は逃げるように寮へと戻ってきた。

 そのままシェリーと共に部屋に逃げ込み、今は彼女からの質問攻めにあっていた。

 どうやってセシリーと仲良くなったのか、どうして彼女を連れてきたのか。

 あらかた話し終わった後、最後に言われたのがどうするのか、だった。


「まああの感じならクライヴ殿下は相手にしないだろうし、セシリーさんが諦めるの待つしかないんじゃない?」


「……クライヴ様は相手になさらないでしょうか?」


「あのねぇ。あれだけの惚気聞かされてもなおそんなふうに思うの?」


 別に彼の心を疑っているわけではない。

 けれどあれほどまでに魅力的な人に想われて、揺らいだりしないのかと疑問に思ってしまう。

 そんな気持ちをそのまま伝えれば、シェリーは首を傾げた。


「それはもう疑ってない?」


「……やはりそうなのでしょうか? クライヴ様の想いを疑っているのではなく……。説明が難しいです」


「パティはさぁ、そういった意味での自己評価低いよね?」


 ぎくり、と身をひいてしまう。

 確かにその通りなので、パトリシアは静かに口を閉じる。

 元より皇太子の婚約者として生きてきたパトリシアは、異性との交流というのが少ない。

 婚約者がいる身で他の異性と仲良くするのは憚られるという、パトリシア本人の意思もあった。

 さらには勉学を好むということで、一定数の男性からは嫌悪されていた。

 そんな中その原因ともいえる婚約者が他の女性に懸想していたとなれば、そういった意味での自身の評価は下りに下がってしまってもおかしくはない気がする。


「……自身の魅力というものがわからず…………」


「はぁん? ……魅力しかないと思うんだけど、そうか本人にはわからないものなのか」


「昔から異性の方との交流は少なかったですし、一定数の男性からは嫌悪されていましたから……」


「嫌悪? なんで?」


「勉学に励む女性は無理だと」


「あー……。そんな底辺の知能低い猿に構う必要ないわよ」


 辛辣である。

 シェリーも嫌な思いをしているのか、苦虫を潰したような顔をして呟いた。


「なるほど。パティの自己評価の低さはそこからきてるのか……。まあ周りから見てたらパティほど魅力的な人はそうそういないから安心しなさい。クライヴ殿下のあの溺愛っぷりで、よそに目を向けるなんてことないわよ」


「……シェリーだって魅力的な女性ですよ。私が男性だったらシェリーと結婚したいです」


「ありがと! 私も男だったらパティと結婚したい」


 ふふっと二人で笑い合って、シェリーはソファから立ち上がった。


「さて、そろそろ戻るわ。話聞いてる限り、パティも自分の気持ちに気づいてるみたいだし」


「…………」


 自分の気持ち。

 そっと己の胸に手を当てれば、とくとくと音が聞こえてくる。

 規則正しいこの音は、クライヴを前にすると少しだけ速くなるのだ。

 それはきっと、彼に恋をしている証拠。

 少しずつ、想いが大きくなっている証なのだ。


「……そうですね。クライヴ様のこと、好きになってきているのだと思います」


 言葉にするとすとんと胸に落ちてきて、あるべき場所にぴたっとハマったような気がした。

 パトリシアはクライヴに恋をしている。

 それを聞いたシェリーは、どこか嬉しそうにしつつも難しそうな顔をして腕を組んだ。


「なるほどなるほど。パティはクライヴ殿下を選んだか。私としてはパティを幸せにしてくれる人なら誰でもいいんだけど……」


「けど?」


「いやぁ……。クライヴ殿下もいろいろ大変そうでしょ? 大丈夫なのかなぁって」


 確かに。

 常に忙しそうにしている彼の姿を思い出す。

 特に元奴隷たちが住むあの村に行ってからは、毎日のようにバタバタとしている。

 無理をしていないといいのだが。


「……クライヴ様ならきっと、大丈夫だと思います。優秀な方ですから」


「信じてるのね。なら、それを恋愛にも向けるといいわよ。無駄な心配はしないこと。じゃあね!」


 手を振って部屋を出て行ったシェリーを見送る。

 確かに彼女のいうとおり、クライヴをもっと信じなくては。

 あれだけはっきりと自分の想いを口にしてくれたのだから、ちゃんと受け止めよう。

 そしていつか、この心が決まったら伝えたい。

 彼に好きだと。

 どんな顔をするだろうか?

 彼の驚いた顔を想像して、思わずくすりと笑ってしまう。


「……楽しみです」

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