全力でやり過ぎて

 ここはバルルゼア草原側で行われている武道大会会場。そして能力ナシの試合会場だ。

 現在、五番の10と六番の2による対戦が終わったところである。勝ったのは10の方だ。

 それをみて幸は、自分の番だと思い立ち上がった。


「いよいよだな。まあ、まだ一回戦だ……肩慣らし程度でいいだろう」

「キースさん、そうですね。だけど、対戦相手の強さによっては……フルでいかないと」

「確かにそうだな。ただ……焦るなよ」


 そうキースに言われ幸は頷く。


「じゃあ行ってきます」


 そう言うと幸は試合場所へと歩き始める。

 それをキースは真剣な表情でみていた。


 ◆◇◆◇◆◇


 試合場所までくると幸は、対戦相手を見上げる。


(デカい……。えっと……俺が百八十五だから、だいたい二メートルあるんじゃないのか? 体格もかなりいい。そうなると……油断できないな)


 そう思い幸は気合いを入れた。そして鋭い眼光で睨んだ。……まぁ、サングラスとマスクをしていたため相手にはみえていないのだが。


「これは楽勝だ。オレとあたったことを後悔するんだな」


 対戦相手の銀髪の男は、幸を見下し笑っている。


「ああ……そうだな。ズウタイだけじゃなく、態度もデカいようだ。俺は、どちらかと云うと……お前みたいに人を上からみるヤツが嫌いなんだよっ!」

「ほう……口は達者なようだ。まあその口も、このあときけなくなるだろうがな」

「そうか……その言葉、そのままお前に返却してやるっ!!」


 そう言い幸は、鋭い眼光で睨んだ。いや、かなり怒っている。今にもキレそうになっていた。

 そうこう言い合ってる間に審判から開始の合図がされる。

 それを聞いたと同時に幸は、体勢を低くし銀髪の男に向かっていった。

 それをみた銀髪の男は幸を捕まえようとする。

 すると幸は、ニヤッと笑みを浮かべた。その後、銀髪の男の体が下を向いたのをみて左側に避ける。そして、素早く右足を掴んだ。


「ドリャアァァアアアー!!」


 そう叫び幸は、即座に足を掴んだまま思いっきり外側に引いた。その時、ボキッと凄い音がする。


「グワッー!?」


 余りの痛さに銀髪の男はそう叫んだ。そして、バタンっと横に倒れる。

 銀髪の男は起きようとした。だが、右足が折れ曲がった状態のため立ち上がれなくなる。


「クソッー……まだだぁ~!!」


 だがそう叫ぶも虚しく、審判は戦闘不能とみなし「勝者四番」と告げられた。

 その後、銀髪の男は町の医療施設へと運ばれる。

 幸は一礼をすると対戦場所から、キースが居る方へ歩き出した。


(……思っていたよりも、手ごたえがなかった。なんか物足りない……どうしてくれるんだ。このモヤモヤした感覚……)


 そう思いながら歩いている。


「アァー!!」


 そう叫び幸は、思いっきり地面を殴った。


 ――ボコッ!!――


 そう辺りに響き渡る。

 そして、半径約二十五センチぐらいの穴ができる。

 それをみていた周囲の者たちは青ざめていた。

 その様子をみていたキースは、頭を抱えている。

 そしてその後、幸は何もなかったようにキースの方へと向かったのだった。

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