面影
ここは倉庫の地下にあるアジトだ。
あれから達基は、ここに居る仲間のドガマヌべとレクリスとリナキャルと武術大会の募集のチラシなどを制作していた。
「んー……ここにある紙だけじゃ、まだ足りないな」
「そうだね。マルネ、早く戻って来ないかなぁ」
「それにしても、遅くないか?」
そうレクリスは言い扉の方をみる。
すると、ゆっくりと扉が開いた。そこからマルネが、ボーっとしながら入ってくる。
それをみた四人は、不思議なものをみたような表情を浮かべた。
「マルネ……どうしたんだ?」
「何か悪い者でも食べたんじゃねえよな?」
「変ですね。いつもであれば、何かしら返答が返ってくるのですが」
「ウンウン……なんか恋をしてるようにもみえるけど」
それを聞き達基とドガマヌべとレクリスは、ブンブンと首を横に振る。
「まさか、マルネに限って恋なんてする訳がない……よな?」
そう達基が問うとマルネは、ニコリと笑みを浮かべた。
「多分……そう、これは恋。ああ……まさか、転移者を好きになってしまうなんて」
それを聞き四人は、驚き仰け反る。
「ちょっと待て、転移者に恋をしたってどういう事だ?」
そう達基に聞かれマルネは、何があったのかを説明した。
「……マルネに絡んでた三人の男を素手で殴り倒した。それも一撃でか……」
「ええ……そうなのよぉ。それでね、お礼を言おうと声をかけたんだけど……そのまま一緒の女とどこかに行ってしまったのよねぇ」
そう言いマルネは、ハァーっと息を漏らす。
「まるで、幸のようだ」
「行動がか?」
「ドガマヌべ……いや行動もそうだけど。……幸は、喧嘩が強かった。あの頃、俺は幸に喧嘩で負けたんだ」
それを聞き四人は驚いた。
「タツキが負けるって……どんな人なんだろう?」
そう言いリナキャルは妄想する。その妄想は、ムキムキの大男だ。
「それほどの強者か……会ってみたいものだな」
ドガマヌべもまた自分よりも、体格がよくムキムキな男を想像していた。
「強い方ですか。その人が、もしこの世界に来ていて……僕たちに協力してくれれば」
そうレクリスは言い達基をみる。
「ああ、ただ幸は……血をみるような喧嘩が好きじゃない。だからあの日、俺たちのリーダを降りたんだ。だからチームは、バラバラになった。内部がな……」
「それだけ優しい方という事でしょうか?」
「そうなんだろうが。チーム内では、自分たちが見捨てられたと思っているヤツもいた。俺は幸の気持ちが分かってたし……好きなスポーツに集中したかったこともな」
一呼吸おき再び口を開いた。
「だから俺は……止めなかった。喧嘩したあとの幸は、いつもつらそうだったからな」
「喧嘩は好きじゃないのに……強いか。面白い者のようじゃな。ワシも会いたくなった」
そう言いドガマヌべは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「それはそうと、マルネ。その転移者の顔はみたのか?」
「いいえ、みてないわ」
「そうか……特徴とかは?」
そう聞かれマルネは思考を巡らせた。すると徐々に、ニタアっと笑みを浮かべる。
「そうねぇ……痩せているのに、腕力があるように思えたわ。重たそうなバトルアックスを背負ってたし。あとは……身長がアタシより少し大きかったぐらいかしら」
「今の幸の身長がどのくらいか分からないが……昔で約百七十五センチぐらいはあったからな。十センチ伸びていてもおかしくない」
達基はますます幸のような気がして来ていた。
「じゃあ、その可能性は大ってことだよね」
「ああ……それに俺がみたのも、幻じゃないかもしれない」
「それなら、探したら良いのでは?」
そうレクリスに言われ達基は首を横に振る。
「恐らく幸のことだ……普通に交渉しても、首を縦に振らない。それに能力者同士の武術大会も、参加しないかもな」
「タツキ……どういう事だ?」
そう言いドガマヌべは首を傾げた。
「さっきも言っただろう。血をみるような喧嘩が嫌いだって……特に人が死ぬようなな」
「じゃあ、能力を使わないで素手だけにしたらどうかな?」
「レクリス、その案は面白いかもしれない。でも……能力者だから、反則をしてまで勝とうと思うヤツもでてくるだろうな」
それを聞き四人は、コクッと頷く。
「能力者も二つに分けたらどうかな?」
そうリナキャルが言うとタツキは考ええる。
「それで何人集まるか分からないが……その方が良さそうだな」
そう言い達基は、四人を順にみた。
「じゃあ、募集内容を変えないとな」
そうレクリスは言い募集の紙の束を持つと作業を開始する。それをみた四人も作業し始めた。
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