タテ縞ヨコ縞

小狸

短編


 彼女と付き合ってから半年になるが、一向にメッセージが帰ってこない。


 最初は既読になっていたけれど、徐々に既読にもならなくなっていった。


 どうしてだろう。


 追求するようにLINEを送るも、メッセージには既読が付く気配を見せない。

 

 付き合っているはずなのに、おかしい。


 彼女との出会いは、職場である。


 新入社員として入社してきた彼女は、同じ部署の部下となった。


 そして挨拶の時、その時だ。


 彼女は、ほほえみかけてきたのだ。


 それは笑顔だった。


 素敵だ、と思った。


 そして会うたび挨拶するたびに、彼女は私にほほえみかけてきてくれた。


 ああ――彼女が私に気があるな。


 そう思ったのは、それからすぐの話である。


 職場では極力、気に掛けるようにした。


 新人だから、上手くいかず大変なこともあるのだろう、私は積極的に彼女に話しかけるようにした。


 彼女はそのたびに、苦笑いしながらも、あのほほえみを返してきてくれた。


 ある日、床に彼女のボールペンが落ちた。


 それを取ろうとして、彼女の手に、私の手が触れた。


 その瞬間。


 電撃のような何かが、私に落ちた。


 思いは恋に発展した――そう思った。


 私達は、あの瞬間から、付き合ったのだ。


 そして会社用のスマホのLINEにて、やり取りをするようになった。


 しかし、半年が過ぎて、少しずつ彼女の様子に異変が生じ始めた。


 会社での彼女の顔色が、あまり良くないのである。


 暗く、うつむいている。


 何か辛いことでもあったのだろうか。


 力になってあげたい、癒してあげたい。


 そう思って、仕事終わりにLINEを送るけれど、それももう未読無視になっていた。


 翌日、彼女は仕事を休んだ。


 これは大変だ、と思って、私は午後休を取った。


 午前の間に、職権を乱用して、彼女の家を特定した。


 会社の名簿の中に記載があったのだ。


 彼女の部屋には、電気がついていた。


 彼女の家に赴き、インターホンを押した。


 私は彼女の名前を呼んだ。


 返事は無かった。


 何かあったからではまずい。


 私は彼女の部屋の扉を叩いた。


 返事がない。


 何かが起こっている。


 危険な状態なのかもしれない。


 そう思って、私は警察と救急に連絡をかけた。


 私の周りに警察官が来た。 


 救急は何をしているのだろう。


 彼女に万が一のことがあったら、どうするつもりなのだろうか。


「早くここを開けてくれ! 彼女が、大変なんだ!」


 私は必死にそう訴えた。


 警察官は粛然とした表情で。


 私に手錠をかけた。


「はい、逮捕」


 *


 部下の女性(個人情報保護のため本名表記を控える)への、職場と私生活でのストーカー容疑で、49歳の会社員男性、狭山さやま高広たかひろが逮捕されたのは。


 令和れいわ6年の3月18日のことである。




《The Twist》 is the END.

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