異世界魔法使いと現代日本で怪異殺し~モブの俺、漫画の闇堕ち悪役王子を拾ってしまった~
シナジー180s
1章
プロローグ
そろそろ雪も降りそうな寒空の下。
おにぎりとほかほかの肉まん、そして目についたフランクフルトと飲み物を抱えたコンビニ帰り。
きっとホームレスの類なんだとわかっていながら近づいた。なに、特別な理由があった訳ではない。ただの好奇心だ。
(あれ、寝てるだけだよな。でも薄着っぽいしこんな日に寝てたら死なないか?)
明日の朝にでも凍死している人間が居たなんてニュースをみたら気分が悪くなりそうだなぁといった自己本位な理由だ。
倒れている人間はどう見ても薄い布程度の服しか身に着けて居なかった。
「おい、大丈夫か?」
声をかけて反応なし。仕方がない、と覚悟を決めて更に近づく。
倒れていたのは小柄な少年。
顔色はうつ伏せで分からないがどちらにせよ体調は万全と言えないだろう。
「おい、こんな所で寝てたら凍死するぞ……って、コスプレか?」
少年の髪色は夕焼けのような橙色。そして着ている服もこれまた細やかな刺繍がされたファンタジーなマントだった。
酔っ払いだろうか。もし薬中毒だったら病院か警察か、何処に連絡しよう。
面倒な人種に声をかけてしまったと若干の後悔を灯夜は含みながら少年を抱き起こす。
そして幾度か声をかけた時、か細い応答が帰ってきた。
「水……」
息をするのもやっと、というような様子だ。思った以上に面倒な相手かもしれない。人を介抱した経験など灯夜には無いのだ。
目を落とした先にはコンビニの袋。
「お茶でいいか」
運良く手元には緑茶があった。灯夜は力無く垂れる少年の手を包み込みながら握らせ口元へと運ぶ。
購入した際より時間が経ち、すっかりぬるくなった緑茶がべちゃべちゃと口元から零れ落ちるが気にしては居られない。本来なら警察なりなんなりに通報して終わり。
ここまでしてやる義理は無いのだ。ごきゅり。少年の喉が動く。
「かはっ、はぁ、はぁ」
「大丈夫……じゃ、なさそうだな」
ぐったりとしていた少年であるが、咳き込みながらも自力で身体を起こす。目元を隠す程に長い橙色の髪から灯夜を伺う様な視線が見えた。
とはいえ伺っているのは灯夜も同様。
改めて少年の姿を視ると本格的なコスプレだなという感想だ。
顔の半分程度が髪で覆われていたが少年はどうやら日本人では無いらしい。西洋人のような顔立ちをしていた。あくまでも
歳は15、6程度だろうか。
自分よりも少し下ぐらいだろうと灯夜はあたりをつける。
「警察呼ぶか? んーっと家は何処だ。近くなら電車賃ぐらいはやるけど」
「や、めろ」
「はぁ?」
こんな行き倒れに構っては居られないとスマホに伸ばした手を跳ねのけられた。ぼたり、湿った土の上にスマホが落ちる。
そして灯夜がスマホを拾うよりも先。
――ぐぎゅるるる
盛大な腹の音が鳴り響いた。誰の? もちろん灯夜ではない。
音の主は橙髪の少年だ。
「食事が、ほしい……」
垂れ下がった前髪の隙間。黄金色の瞳がギラギラと灯夜を見て、視線が移って。
その視線の先にあるものは――コンビニの袋だ。袋からは肉まんはともかくホットドッグが激しい主張をした香りを放っている。
芳ばしい香りは紙の袋と薄いビニール袋一枚で防げるようなものではなかった。なんせ灯夜だってメインディッシュとして大切に大切に、わくわくしながら抱えて帰路についていたものだから。
――ああもう、クソ!
悪態が零れてしまっても仕方がない。叫びながら灯夜は袋を少年へ突き出した。
どうせ既にお茶も渡しているのだ。ホットドッグ(190円)と鮭おにぎり(160円)を渡したところで誤差である。
「ほら、これ食えよ! ついでにおにぎりも持っていけ!」
そっとまだ温く熱を持つ肉まんだけは自分の胸元へと寄せながら。灯夜とて空腹を紛らわせる為にわざわざ寒空の下、コンビニへと向かったのだ。
ひとつぐらいの戦利品が残ってもいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます