トリあえずの話

卯野ましろ

トリあえずの話

「今日は鶏肉が安くて良かった……」


 私は買い物を終えて、自宅へと向かっていると……。


「ん?」


 急に目の前に、とてつもなくかわいいものが現れた。オレンジ色で、丸っこい生き物。見慣れないけれど、その姿からして鳥だろう……いや鳥確定だ。今、羽根をパタパタしている。


「……かわいい……」


 とりあえず私は、自分のスマホで写真を撮った。確認してみると、その鳥はカメラ目線だった。まさか私に気付いていたとは。かわいい。


「あっ」


 私に撮影されると、かわいい鳥はどこかへ飛んで行ってしまった。もしかして、写真を撮られたことに満足したのだろうか。



「……うーん……」


 帰宅して、夕飯の準備をしようとした私。せっかく食べたいものを作るために買い物したのだが、私は悩んでしまった。そして私は今日の献立を、変更することにした。


「とりあえず今日は、やめとくか」


 私は今晩、鶏のマヨネーズ和えではなくて、チャーハンを作ることにした。さっき出会ったあの子を思い出し、何だか申し訳なくなった結果、鶏和えず。鶏のマヨネーズ和えは今度、作って食べることにしよう。




「……いないなぁ……」


 翌日、あのかわいい鳥に会いたくなった私は、近所を散歩することにした。あの子に会いたいなぁ……と思いながら私は歩いた。

 しかし、あの子の姿は見えなかった。鳥会えず。




「あ、いたっ!」


 その次の日、近所でオレンジ色の丸っこいあの子に会えた。私のことを覚えてくれているのか、鳥は私に気付くと両目をキラキラさせながら「こっち来てー」とでも言っているかのように羽根をパタパタしていた。


「……やっぱり、かわいい……」


 私は鳥に駆け寄って、かわいいその子を撫でてみた。私にモフられた鳥は、どうやら嬉しそうだった。ご機嫌なのか、羽根のパタパタのペースが早くなっている。ここまで分かりやすく、そして人懐こい鳥に合ったのは初めてだ。

 こんなかわいい子、他の人に見つかったら間違いなく取り合いになるだろう。そんな心配をしていた私だったが、ライバルは出現しなかった。取り合えず。


「またねー」


 私は鳥とバイバイした。自分の家にお迎えしたいとも思ったが、やめておいた。あの子は自由に生きたそうだから、とりあえず友達のままでいよう。

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