【完結】神管《しんかん》
木元宗
1
1.死刑宣告みたいな告白
01.「須らく全て打ち伏せる」
崇めるといい気になって、軽んじると祟って来る神という子供みたいな存在を神聖なものとして管理しているのは結局人間であり、私が属するのはそれを生業として来た由緒正しき旧家であって、令和のご時世に自分の子供へ許嫁だのを未だ用意するクソルールが蔓延しているが、幸い私は免れていた。私達神を管理する仕事、〝
なんて思考が暗い方へ転がっている原因である縁談話をしていた
「
クラスの皆? マジか?
「いえ。確か、英国式の紅茶の専門店でしたっけ。半個室もあって、ゆっくり話すには
かつターゲット層が学生では無いだろう高級感漂う店なので、つまりうちのクラスとは相当に優雅なオシャレ集団という事になる。そうだったっけか……? 昨日お調子者の男子の机から、今時珍しい紙のエロ本が発掘されたばかりだぞ? 発掘チームであるイケイケ女子グループが教壇に立ち、そいつで調査報告という名の朗読会を始めようとしたから、即刻
いやまあ、
どこからか流れて来た桜の花弁が、足元に舞い降りた。商店街のアスファルトには
木がミシミシと軋むような音がする。
三軒先の両側のシャッターの奥からだ。
「そうみたいなの。私もまだだから、今度一緒に行ってみない?」
「いいですよ」
異音が聞こえていたシャッターが内側から突き破られる。雪崩のように通路へ零れ出すのは、左側のシャッターからは牛の腸、右側のシャッターからは、腐って膨張しているのか嫌に丸くて褪せた死んだ魚群。
静寂からどことなく清潔感が上っていた夜の闇が、爆発的に噴き出した生臭さに汚される。
行く手を阻むように現れた腸と魚群は、歩き続ける私達へ一個のバネのように飛び出す。風切り音が獣のような唸りを上げ、ぐっと増した腐敗臭に、接触まで残り寸刻と告げられた。
ブレザーのポケットからスマホを取り出していた
「見て。あのお店の石焼ナポリタン。美味しそうじゃない? 夕方からしか出されてないメニューだから、夕飯も済ませるつもりで行きたいんだけれど構わない?」
「それ目的が紅茶じゃなくてナポリタンになってません?」
「三杯は食べたい」
私は呆れて眉がハの字になる。
「こういう雰囲気のお店では浮きますよ」
見た目に似合わず大食いなんだから。
迫る腸と魚群が、私達に影を落とし視界を覆った。
視線を前に投げた
背中の木刀袋の封を切っていた私は、抜いた木刀を両手で握り正面へ振り下ろした。かち割るように左右へ打ち払われた腸と魚群は、通路の両脇に連なるシャッターへぶち当たる。シャッターの奥まで突っ込み店内を破壊しているが、それらの奥から更に何かが飛び出して来る気配は無い。
神を管理する故に
一度も足を止めていない
「だから躊躇うのよねえ。こういうお洒落なお店。美食は満腹になるまで食べちゃ駄目って、一体誰が決めたのかしら?」
木刀を下ろした私は、
腸と魚群が消えていた。それらが現れた二つのシャッターを通り過ぎてまだ暫く歩いた先、廃神社に続く方の出入り口前で、横並びに立つ二匹の狛犬と目が合う。
今回私達が処分しに来た神の使いだろう。廃神社の神とその使いである奴らは、自分達を忘れた近隣住民をその恨みから多数殺害している。私達がこの商店街を歩いていたのも、その先の廃神社に向かう為だった。
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