第17話 天使に謝罪

 翌日、俺は朝早く登校した。しばらくすると前田紗栄子まえださえこ小島有紀こじまゆきが来た。


「おはよう」


「あ、中里なかざと君」


 前田さんが俺のところに来る。


「ごめんなさい!」

「昨日はごめん!」


 2人同時に謝った。


「いや、前田さんが謝ること無いから」


「ううん、私が中里君にずっと負担を掛けてたから。迷惑だったよね」


「いや、そういうことじゃないから。昨日は俺が別のことでイライラしていただけなんだ。何も出来なくて途中で帰ってごめん」


「……別のことって……元カノさん?」


 前田さんは朋美が俺を呼び出したことを見ていた。


「ああ。あいつ、俺とやり直そうとか言ってきて……」


「それで、どうしたの?」


「もちろん、断ったよ」


「そうなんだ。中里君、それってもしかして……」


 前田さんは少し不安そうに俺を見つめてきた。

 何だろう。


 ――もしかして俺が前田さんを好きになっていることに気がついた?


 と俺が考えたとき、前田さんから思いもしない言葉が出た。


「それってもしかして『ざまぁ』ってやつなの?」


「「は?」」


 俺と小島は唖然として前田さんを見た。


「Web小説であるでしょ、『ざまぁ』って。そんなのほんとにあるのかなあって思ってたけど、中里君、『ざまぁ』しちゃったの?」


 前田さんは心配そうに俺を見つめてくる。


「いやぁ、『ざまぁ』っていうか……」


「それとも『もう遅い』ってやつになるのかな……」


「紗栄子。何言ってるの、もう」


 小島があきれている。


「そ、そういえば、前田さん。唯一の息抜きが小説だったね」


 俺は前田さんが前に言っていたことを思い出した。


「うん。なかなか本も買えないから最近はWeb小説も読んでるんだ」


「あのねぇ、紗栄子。あんた、天使って言われてるんだから、そんな『ざまぁ』とか『もう遅い』とか人前で言っちゃダメよ。イメージダウンになるから」


「え、天使? イメージダウン?」


 前田さんが『陰キャの天使』と呼ばれていることは本人には内緒だったはずだ。

 小声で小島に言う。


「小島、天使は内緒じゃないのか」


「あ、そうだった。とにかく、うら若き女子高生がそんな言葉使っちゃいけません」


「え、そうなんだ。ごめん。気を付けるね。で、天使って?」


「それはもういいから。それより、謝罪は終わったの?」


「あ、そうだった。本当にごめんなさい」


「だから謝ることは何も無いから。昨日は俺が調子悪かっただけだよ」


「じゃ、じゃあ、これからも一緒に食堂に来てくれる?」


 前田さんは上目遣いに俺を見た。

 う、これは天使だ。いや、悪魔なのかも。


「もちろん。今日も行くからな。ボディガードは続ける」


「よかったー」


 前田さんはほっとしたように言った。俺がボディガードを続けるか心配だったようだ。まあ実際、辞めようかと思ったのだが。


「それから、中里」


 小島が話しかけてくる。


「ん、なんだ?」


「今回連絡取れずに困ったんだから。健司に聞けたから良かったけど」


「小島は健司とは仲いいのか?」


「あー、幼馴染みってところ」


「そうだったのか。今回は健司に助けられたな」


「うん。だから、今後こういうことがないように連絡先交換しとこう」


「そうだな」


 俺と小島はメッセージの連絡先を交換した。


「紗栄子もよ」


「え? 私も?」


「当たり前でしょ。紗栄子のボディガードなんだから」


 俺は前田さんの連絡先をゲットできた。


 それにしても前田さんが「ざまぁ」と「もう遅い」とかに興味持ってるとは思わなかった。そういう系統の小説をよく読んでいるのだろうか。


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