第10話 昼休みの話

 その日の昼休み。俺は教室で一人で昼飯を食べていた。1年の時には教室には居られず、誰も居ない場所を探して食べていたことを考えると各段の進歩だ。あの頃の教室では佐々木朋美ささきともみのグループが目に入るのも嫌だった。それにときどき先輩も来て朋美との親密ぶりを見せつけていた。


 それを考えるとこの教室は平和だ。と思ったが、相変わらず前田紗栄子の周りには陰キャどもが集まっている。小島有紀も大変そうだ。だが、これなら俺も助けに行くことができる。いざ席を立とうか、と思ったところで声を掛けられた。


あお


「なんだ、健司か」


 元友人の伊藤健司がなぜか俺のクラスに来ていた。


「相変わらず一人か。寂しいな」


「まあな」


「ん? あれは『陰キャの天使』じゃないか」


 健司も前田紗栄子のことを知っているようだ。


「ああ。毎日騒がしいよ」


「相変わらず一部にはモテモテだな」


 そんなことを話していると小島がこちらを振り返った。


「誰かいると思ったら健司じゃん」


「お、有紀! 久しぶりだな」


「あんた、中里と知り合いだったんだ」


 小島が健司と親しげに話す。この2人、知り合いだったのか。


「こいつがまだ陽キャだった頃にな」


「あー、そっか。で、何しに来たの?」


「そうだった。中里に話があるんだった。ここではあれだから、ちょっとついて来い」


「なんだよ。俺は行かないぞ」


「いいから来い。大事な話だ」


 いつにない健司の迫力に押され、俺は教室を出た。健司は人が少ないところまで歩いていく。

 そして、小声で言った。


「蒼、朋美の話、聞いたか?」


「なんのことだ? 俺はもう関わりないから何も知らないぞ」


「そうか。あのな、先輩と別れたらしいぞ」


「そうなのか!? ……まあ、俺には関係ない話だ」


 あんなにイチャイチャしていたのに別れたのか。そういえば3年の先輩だったからもう卒業してここには居ないんだっけ。離れ離れはなればなれになったらあっという間か。


「どうやら先輩が浮気していたらしい」


「……」


 俺と同じ結末か。今朝の朋美の表情をふと思い出す。俺は朋美にはいい感情は持っていないが、少しかわいそうに思えることも確かだった。


「チャンスだな、蒼」


「は? 何がだよ」


「何がって、朋美がフリーになったことだよ」


「だから、俺には関係ない話だ。それに……今はいろいろと忙しい」


「忙しい? バイトでも始めたのか」


「バイトというか、ボランティアだな」


「ボランティア?」


「まあな」


 そうだ。俺は食堂に行って前田さんを助けないといけない。

 前田さん、いつも大変そうだからな。だから、俺が助けて……


「おい、中里?」


「なんだ?」


「顔がニヤけてるぞ。そんなに楽しいボランティアなのか?」


「な!! ニヤけてなどいない」


「いや、だって……」


「失敬な。俺は大変なボランティアに従事してるんだ。やりがいはあるけどな。……と、とにかく、もう朋美は関係ないから、いちいち報告してくるな」


 俺は何とかごまかして、教室に戻った。


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