流行り矢張り廃り

小狸

短編

 *


 流行はやりに乗るのは、苦手である。


 ここで間違えて欲しくないのは、僕は決して、流行りの物を否定しているわけではないということだ。


 むしろ時流において最も注目されている物に鋭敏に鼻がきく、というのは、長所だと思っている。


 素直に凄いと思う。


 僕はいつでも、流行りに乗り遅れる。


 それはどの時間軸においても同じであった。


 学生時代、皆の話題に常に一歩遅れていた。

 

 クラスの人々の恋愛事情を知るのは、最後であった。


 噂話は、僕に回って来さえしなかった。

 

 やっとそれをつかんだと思ったら、もう周りの人々は次の流行に足を進めているのである。

 

 それはとても速い。

 

 僕なんかでは追い付くことはできない。


 例えば、僕は小説を読む。


 学生時代はあくたがわりゅうすけざいおさむ江戸えどがわらんなどを好んで読んでいた。


 そんな僕に対して、周りの人々は指を差して笑っていた。


 「古い」だとか「根暗」だとか「陰湿」だとか、色々と言いたい放題言われた覚えがある。


 ただ――僕はそれでも、読むのを止めなかった。

 

 僕にとって、芥川や太宰は、面白いものだったからである。


 そう、面白かったのだ。


 流石は歴史に名を残した文豪、言葉の選び方から、表現の仕方まで、僕はとても引き込まれた。


 それを分かってもらおうとは思わなかった。


 というか、別に、誰かと共有し分かち合いたいとは思わなかった。


 コミュニケーション能力が元々低かった、というのもあるけれど――それよりも独占欲とは少し違うが――そのような心持ちの方が強かったように思う。


 この作者の、いやさこの小説の感想は、抱いた思いは、だ。


 僕は、すぐに揺らぐ。


 人の意見や見解、批評や非難に、簡単に折れて曲がって、そっちに寄せる。


 でも、小説においてのみは、僕は、僕でいたかったのだ。


 令和の今、あらゆる事柄が流行り消費され、そしてすたれてゆく時代である。


 そんな時世の中でも、僕のような人間でも生きていいと、ここにいても間違いではないと――と、思えるように。


 今日も僕は、小説を読む。




(「流行り矢張やはり廃り」――了)

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