第11話 子供達と
「は、はあぁあぁッ!?」
その光景にゴンザは顎が外れるのではないかという程に口を開いた。
数秒前には、手の骨を鳴らして威嚇していた筈の男達。それが何の音も無くやられていたのだ。驚きもする。
「あ"ー、うっせぇ。てか早くそれ返せって。俺のだって言ってんだろぉ?」
「な、どういう事だ? さっきまで一緒に……」
「て、店主さん……?」
エデンは怠そうに片耳を押さえ、手を差し出す。
エデンの様子を見て戸惑う2人。今5人もの男を瞬殺した者とは思えない言動に、ゴンザは少し冷静さを取り戻したのか口角を無理矢理に上げて見せる。
「……ははっ! それがお前の"魔法"か〜ッ!」
「……あ"ー?」
「一瞬にしてそいつらをやったのは凄い魔法だが〜? 甘かったな!! 一瞬にして5人を無力化したのなら、また魔法を使うのにそれなりのインターバルが必要な筈だ〜!!」
ゴンザはニヤけながら、エデンの方へと人差し指をびしっと差した。
魔法は決して万能なものではない。強力な魔法にはそれなりのデメリットが存在する。
「まぁ……そうかもなぁ」
しかしエデンは得意げに話すゴンザへ無警戒に近づいて行く。そしてーー。
「はは〜? 惚けない方が身の為だぞ〜? これ以上近づいたらッ!!?」
「よぉし。財布も取り返したし、ジュース買って帰るぞぉ」
「え? さっきまでアソコに、え?」
ゴンザの背後にはエデンが居た。先程までは、ゴンザの目の前に居た筈のエデンがだ。しかも手に持っていた筈の財布も、いつの間にかエデンの手にあった。
(何だ今のは!? 目の前から急に……瞬間移動?)
そう。ゴンザの目にはそう見えていた。ずっと見ていた筈なのに。1度瞬きをした瞬間、既にエデンは自分の背後に立って財布を取り返していた。
(こいつ……何者だ? ここいらじゃ見ない……それにアイナとはどんな関係なのか。いや、一先ずはーー)
「ちっ……今日は見逃してやるか〜」
ゴンザはそう結論づけ踵を返す。
「アイナよぉ、お前等あとで後悔する事になるぜ? 覚えてろよ〜?」
ゴンザは去り際に言い残し、5人の倒れ伏している男達に目もくれずに去って行く。それからエデンと少し遅れてやって来たフィスログが、丁度今の光景を見てたのか頭を掻いた。
「お前、面倒な奴等に目付けられたな」
「あ"ー?」
「アイツ、このラクトの街の裏を牛耳る『夜天会』の幹部だ。何をして来るのか分かったもんじゃないぞ」
怖々しい物言いに、アイナも肯定するかのように肩を震わせ黙り込む。そんな2人の様子を尻目にしながらも、エデンはある方向を見て指差す。
「……それよりも俺はあの『ペッパージュース』が良いんだが、お前らはどうすんだ?」
◇
「エデン……アンタ何してんのよ?」
『安らぎの泊まり木』のホール。ヨルがラクリスとの依頼を終わらせて帰って来ると、エデンが疲れ切ったかのようにホールへと寝転がっていた。
しかも、寝転がっていたのはエデン1人だけではなかった。
「こんな子供達と一緒に……どこから拾って来たのよ」
両腕・両脚に1人ずつ、腹に1人と、合計で5人。その内の1人はまだ産まれてまもない子供達が、エデンの身体を枕にして眠っている。
「いや……拾って来る訳ない、だろ」
「じゃあ何処から……」
子供達を起こさないように小声で話していると、奥から料理を運んで来たアイナが、エデン達を見て苦笑いを浮かべる。
「皆んな眠っちゃったみたいですね。あ、ヨルちゃんお帰りなさい」
「アイナ……これは相当、だな」
エデンは本当に疲れたのか、言葉を詰まらせながら言った。
時はフィスログと別れ、宿屋に着いた頃へと巻き戻る。
『おい……これはどういう事だ?』
『え、えっとですね』
エデン達が宿屋へと着くと、宿屋の奥から、赤ん坊の泣き声・何人かのまだ声変わりもしていない様な子供達の声が響いていた。
アイナの話では、この子供達もアイナと同様に親が片親で、ゴンザに仕事を斡旋して貰っているという同じ境遇の子供達らしく、宿屋に住まわせてやっているとの事だった。
お金を貰っているからと言って、この小さな子供達が自力で上手く生きていける訳ではなく、騙され、奪われ、ひもじい思いをしてたのを見兼ねたのがアイナという訳だ。
アイナの服装が高そうなのは、この子達がアイナに宿屋の客引きを任せているから。その為少しでも容姿は良くして欲しいからとの事だった。
『で? 何で黙ってたんだ?』
『ウチの宿って……壁が薄いから、ユルンの夜泣きで苦情がよく来る事があるんです。だからーー』
『だから黙ってたってかぁ……別に後からバレるだろぉ』
『そうですけど、宿屋を経営して行くにはお金が必要で……』
この"お化け通り"の事もあり、来客数が少ないうえ苦情で客は離れて行く。土地代も含めば、赤字。
(店をやって行く上で、デメリットは隠すのが普通か……)
『あの、良かったらなんですけど、この子達のお世話をしてくれませんか? その間にお料理を全部済まして置きたくて……』
『まぁ……昨日よりも美味い料理が出て来るなら良いぞぉ』
『腕によりを掛けて作らせて頂きますね!』
と、安請け合いした結果がこれだった。
「子供ってこんな元気なんだな……アイナはいつも相手してるのか?」
「まぁそうですね。いつも走り回ってますよ? でも今日はお料理に集中出来ました、ありがとうございます」
アイナは頭を深く下げ、エデンはそれに首を振った。
「いや……別に良い。結局は俺の為にやった事だからなぁ……」
アイナがそれにもう1度頭を深く下げ、料理を置いて奥へと戻って行くのを確認する。
「それで、ヨルはどこ行って来たんだ?」
「観光通りの方に行ってたわよ。そこで丁度ラクリスにあってね、ちょっとお手伝いをしたわよ。宿代は貯まったみたいだから少し遅れて……あ」
「も、戻って来ました!! やっと今日の分の宿代が貯まりました!!」
ラクリスは扉を勢い良く開けて、大声で言った……そう。子供達が起きるような声量で。
赤ん坊であるユルンは泣き、他の子供達は唸るように逆ギレする、それを見てラクリスは目を白黒され、ヨルは子供達をあやす様に飛び回り、エデンは頭を抱える……まさに阿鼻叫喚の絵が完成するのだった。
◇
「ゴンザ、これはどういう事だ?」
暗い、黒で塗り潰されたような石造の建物の中。蝋燭の火と2人の影が揺らめく。
「何故お前にやった5人の部下が牢屋へと入っているのか、簡潔に説明しろ」
「いや、あ、アイツらが簡単にノビやがったんだ。仕方がなかった」
ゴンザは怯えるように言葉を並べる。間違いではない言葉を。
「倒れている部下を置いてお前だけが逃げて来た、そう言いたいんだな?」
「っ……アソコに残って助けようとしてたら俺まで捕まっていた。そうなったら困るのはアンタらだろ?」
「別に。困らない。そうなったら情報を抜かれないようにするだけだ」
捕まった状態で情報を抜かれないように、やり方は1つしかない。
その男の答えにゴンザは思わず息を呑む。
「で……私達に手を出したならそれなりの報いを受けさせないといけない訳だが、相手は?」
「相当な手練れだったが〜……知らない奴だった。アイナの知り合いって事は確かだ」
言われ、男は考え込むように顔を伏せる。
「支給日は明日だったか?」
「あぁ」
「そろそろ"あの計画"も始まる……いずれは莫大な金額が必要になるかもしれない」
「ははっ……つまり〜?」
答えの予想が着いているのか、ゴンザは醜悪な笑みを浮かべる。そして、男は寡黙な性情を容易に想像させる淡々とした声音で言った。
「殺せ。あの宿に居る者全て」
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