続 ドリームチーム 後編
@0074889
第3話 「ドリームチーム」 後編 其の1 遠之 えみ作
ハレルヤの弟子たちが地下基地にやって来たのは、宣戦布告から10日が過ぎた頃だった。忙しく動き回るAI兵士の間を縫って現れた弟子を迎えたハレルヤは言った。
「今日からお前たちもここで生活するのだよ。後で、私の留守の間鍛えた術を披露してもらう。取り敢えず用意された個室に案内しよう」 弟子たちはゾロゾロと
ハレルヤの後に続いた。
途中 フブキを見かけた6人は大歓声を上げておおハシャギだったが、丁度そこを通りかかったパンジーから冷ややかな対応をされた弟子たちは、通り過ぎたパンジーの
背中に思い思いの仕返しを浴びせ、今度はスフレから叱咤されるハメに。
「互いをリスペクトするんだ。ここではそれが一番重要だ!じき、巡回の兵士が燃料交換に戻って来る。基地内を自由に飛び回ってもいいが 精密機械には絶対触れるな!以上だ」
「いつものスフレじゃないね」スラッシュがコソコソ言うと 「スゲーなここ‼腕がなるぜい‼」と、ショットがマト外れに応えコンパスがわざとらしく天を仰いで十字をきった。あとの3人はいつも通り我関せずである。
「攻撃はいつ始まるか解らない、何時でも反撃できる様に、そのつもりで待機してなさい!」 ハレルヤがOR(オペレーションルーム)に戻る間際コンパスが 「魔法は普通に使っていいんだよね?」とハレルヤに訊いた。
ハレルヤは暫し思案してから答えた。
「………いい、で、しょう。でも、くれぐれも大将たちの邪魔にならない様に。特に……パンジーには近づかない方が身のためです」 「ナ…ゼですか?」スラッシュがオズオズと尋ねた。 「…そ…れは……」 「気難しいからだよ!BrainAIの親分だし!逆らうとBrainAIに意地悪されるぞ!」 ハレルヤが答える前にショットがしたり顔で答えた。そうなの?と問うコンパスにハレルヤは 「……ま、当たらずとも遠からず……とにかくそう謂う事です。では又後で」と、足早に立ち去った。
10日後、宣戦布告から480時間が過ぎようとしていたが何事もなく、更に三日過ぎ、一週間過ぎ、10日過ぎても襲来どころか一隻のポッドすら感知できなかった。
ORでは緊張と弛緩がない交ぜの良くない空気が流れだしていた。
四天王は「燃料事情で襲撃を先延ばししたか、諦めたか」と云う見解だったが
フブキとスフレは正反対の立場に立った。ハレルヤ、ツクシ、サクラは考えが纏まらず中立的な態度だが どちらかといえばフブキの考えに近かった。
四天王の中でも、若く血気盛んなジュピターは戦意が下降気味のビッグデイパーにドロップアウトバックを阻止しようと食い下がったが、与えられた猶予は三日間だけだった。このまま何事も起こらない事がベストなのはジュピターも重々承知している。
だが、このままで済む筈はない、我々が引き返した直後に襲来されたらORでの指揮系統が不十分で侵入を許してしまうかもしれない!そんな事になったら悔やんでも悔やみ切れない。 つまり、ジュピターもフブキの考えに近かったのである。
事件は、ジュピターの提案をのんだ約束の三日が過ぎても、何事も起こらなかった事で、渋るジュピターを尻目に四天王がサバンナへ向けて帰還と云う場面で起きた。
ポッドを操縦するAIパイロットが戦闘型兵士に代わっていた事で異変を感じた四天王がORに引き返そうとした時、四体の戦闘型兵士が襲い掛かってきた。
4人共に、四体の兵士からスプレーを吹きかけられると重なる様に倒れ込んでしまったが、運が良かったのは近くに基地内を探索していたショットとコンパス、スラッシュがいた事だ。四天王の危機を目撃した3人は一斉に透明になるとORへと走った。いや、飛んだと云うべきか。
事態を聞いたフブキはツクシ、サクラを伴いゲートへと向かった。その後をハレルヤと6人の弟子が続く。残ったスフレはパンジーに戦闘準備に入った事を知らせORに陣取った。
ゲート前では四天王が意識のない状態で倒れ込んでいた。すぐ傍にAI兵士が無造作に立っているのが見えた時点で足を止めた。フブキは左上腕に巻き付けているアームコンピューターでBrainAIを起動させ兵士のスイッチを切る様命令したが、四天王を盾にした四体だけはOFFにならず腕をゆらゆら動かしている。
フブキが足を止める寸前に透明になったハレルヤと弟子たちが首尾よく四体の背後から襲い掛かったが、逆に四体が繰り出した透明カプセルに閉じ込められてしまった。
しかし、そこはハレルヤ、間一髪逃れると自分の髪の毛を4本抜くや毛に息を吹きかけ四体の兵士めがけ投げつけた。毛は鋼鉄の鎖に形を変え四体に絡み付いた。
動きを封じ込めたと見たフブキが疾走し出すと同時に四体が鋼鉄鎖を引き千切り、カプセルに閉じ込められた弟子を出そうと呪術を唱えているハレルヤをアッサリ拉致すると、向かって来るフブキに 「止まれ‼」 と制した。
フブキはドスンと響く衝撃に面食らった。AI兵士が「止まれ!」と命令した事にフブキばかりか押さえつけられて身動きできないハレルヤもツクシもサクラも啞然とするばかりだった。
フブキは混乱の入り混じった声で目の前で起きていることをパンジーに伝えたが、パンジーの答えは 「そんな事100%ありえない‼」と云ういつものパンジーだった。
「この石頭‼自分の目で確かめてごらん‼」ハレルヤが怒鳴った。 非常時の会話はオープンモードで基地の中はどこにいても誰の耳にも入る仕組みだから 勿論スフレの耳にも届いている。
「おいおい、内輪揉めはやめろ!、成り行きでこうなったが俺たちは敵じゃない。
ま、そっちの出方次第では手強い敵になるがな!」 ギョッとしたのはフブキだけではない。気を失っている四天王以外の誰もが固まった。
パンジーだけは、兵士に内蔵されている通信機を通して遠隔操作されているだけだと言ってきかなかったが 「喋るはずのないAIがこうして喋ってんだ!目を覚ませ!トンチンカン‼」と云う侵略したと思われる敵の説教でようやく深刻な状況を理解した。パンジーは全てのBrainAIをONに切り替え先ずゲートを閉じた。
どの様に監視をすり抜けて侵入されたのか今は解らぬが、侵入された以上この問題はこの基地内で精算しなければならない。いつかマーキュリーが言った300年前の科学と云う言葉がパンジーのプライドを戒めていた。
「仕組みは解らぬが、お前たちは機械か?人間か?」
フブキは勿論、会話できる機能の事は知っていたが何食わぬ顔で無知を装い一歩前に出た。ツクシとサクラが続く。四天王が人質になっている以上迂闊に手を出す事はできないが、フブキの頭の中では魔女たちは大丈夫だと云う計算だ。更に一歩、もう一歩と進んでいると 「止まれ‼限界だ‼」 と、再び四体の兵士が一斉に右腕を前に突き出した。
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