幸せを呼ぶ白いトリ
蒼田
旧校舎の白いトリ
――旧校舎で白いトリに出会うと幸運が訪れる。
ということがまことしやかにささやかれていた。
「でどうするのぉ~」
「ど、どうする......って? 」
「そんなの決まってるじゃん。告白するかどうかよ」
中学校の一室。
女の子が友人にちょっかいをかけていた。
ちょっかいをかけられた女の子はその言葉に顔を赤くし顔を俯ける。
煮え切らない様子を見て心の中で溜息をつく。
「このままだと告白せずに卒業よぉ」
「い、いつか告白するよ」
「と言いながら三年生に入ったんだけど」
抗議をしたが再度撃沈。
少し可哀想に見えるも同じ問答を小学校の頃からしている友人からすれば早く気持ちに区切りをつけてもらいたい。
加えて彼女は双方の気持ちを知っている。
故に「早くくっつけ」と声を大にして叫びたいのだが、そう言うわけにもいかず。
(あっちは部活で忙しい。こっちはヘタレ。どうしたら……そうだ! )
「ねぇ。旧校舎の幸せのトリ、知ってる? 」
「し、知ってるよ」
「なら今度探しに行こう! 」
いきなりの提案に驚く少女。
とめようにもいきなりテンションマックスになった友人を止めることは出来ず、結局幸せのトリを探しに行くこととなった。
★
『ごめん~。急用で行けなくなった』
「えぇぇぇぇ!!! 」
『あ、でも見つけたら写真送ってね。楽しみにしてる』
「ちょっ?! ……」
彼女が抗議するも、スマホからはツーツーと電話が途切れた音が聞こえるだけ。
その様子を見て後ろに控えていた男子が声をかける。
「これないって? 」
「そ、そうみたい」
困ったな、と頬を掻きながら旧校舎に向く。
「い、一応白いトリを見つけたら写真を送ってって……」
「そ、そうなんだ」
どこか居心地が悪そうに答える。
少し顔を赤くしながら彼女に聞いた。
「じゃ、じゃぁ中に入ってみる? 」
「そ、そうだね。うん」
彼の申し出にぎゅっと拳を握りながら頷いた。
そして二人は緊張しながら旧校舎の中へ入っていった。
暗ければ雰囲気が出るが、今日は土曜日の昼間。
梅雨もすぎ夏が近いが、旧校舎の中はヒンヤリとしている。
けれど窓からは彼女達をこがさんとする太陽の光が差し込んでいた。
「いないね」
「う、うん」
暑すぎず寒すぎず、程よい温度の中を二人が歩いて白いトリを探す。
この旧校舎は文化祭の時などに使うことがある。
よって学校が定期的に手入れをしているので鳥が巣を作るということはあまりない。
小鳥が迷い込むことはあれど、まずもって締め切られた窓から鳥が入ってくるということはないだろう。
まぁその希少さが「幸せを運ぶトリ」と呼ばせているのかもしれないが。
「そ、そういえば、さ」
「な、なに? 」
「……す、好きなひとって……いるのかな? 」
二人っきりの旧校舎。
いつもなら周りを気にして聞かないことも聞ける状態。
彼は思いきって彼女の思いをたずねた。
逆にたずねられた方はというと。
(~~~っ! これってどういうことなのかなっ! ほ、本当の事を言っていいのかな?! )
パニックになっていた。
幸せを呼ぶ白いトリを探しに行くと聞いてから、こんなことになるのではないかと頭の隅で考えていた。
けれども本当に起こるとどう答えたらわからないというもの。
いるといった方が良いのか、いないといった方が良いのか。
どっちが正解なのかわからず頭を回しているとふと友人の言葉が頭を過った。
『もし答えに詰まったら相手の手をぎゅっと握って体を寄せるんだよ』
(~~~!!! )
ハードである。告白するよりもハードである。
女友達以外と手を握ったことがない彼女にとって、男子と手を握るというのはとても勇気のいる行為。
好意を言葉以外で伝える方法として物理的に距離を詰めるというのは超が付くほど有効かもしれないが、今の彼女にとっては清水寺から飛び降りる程の難易度。
けれどもテンパった頭はそれが答える唯一の方法と誤解させる。
そして――。
「~~~!!! 」
ぎゅっと手を握り彼女が体を寄せると男子はビクンと体を直立させた。
何をされたのかわからない。
温かみが増した手を握り返しながらもどういうことか聞くために彼女を見る。
が、思ったよりも近い。仄かに甘い香りが彼の鼻腔をくすぐる。
そんな彼女にどぎまぎして聞く所ではなかった。
二人共蒸気機関車のように頭から湯気を出しながら旧校舎を探索する。
結局の所二人共気持ちを言葉にする事は出来なかったが、二人の距離は縮まった。
二人は未だトリあえず。
けれど二人に必要だったのは幸運を呼ぶトリではなく、一歩踏み出す勇気だったのかもしれない。
幸せを呼ぶ白いトリ 蒼田 @souda0011
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