fight17:眼中にない男

「テメェ、一心、テメェ! よくも抜け抜けと出て来やがって、また、虐められたいか、ゴラァ!」

 リーダーの男はかつての空手部の先輩であったが、一心を虐め抜き、痛めつけたのであった。

 しかし、一心はそんな男に恐怖を感じなければ、むしろ、憤りと苛立ちを隠せなかった。

「テメェのような馬鹿野郎が奈緒に勝てる訳ねぇだろ。だが、まぁ、今度はお前らのせいで、また、あいつが塞ぎ込んでしまうのは見るに堪えねえからな。」

「抜かせ、また、拝ませて貰うぜ! お前の泣きっ面をな!」

 リーダーの男は無理して不敵に笑うも、懐に忍ばせた拳銃を構えることを狙った。

 一心が一歩ずつ踏み出そうとし、数センチ近づいた時、リーダーの男は拳銃を突き出そうとした。

 その瞬間、一心は恐ろしくも速く正拳を突き出し、拳銃を構えようとしたリーダーの男のその手首を砕き、拳銃を落とさせた。

 リーダーの男は痛みに悶える暇もなく、一心に顔を正拳で殴られ、倒れ、彼に跨られてしまう。

 リーダーの男は一心の表情が冷淡冷酷に冷たい眼差しを向けていることを知り、背筋が恐怖で凍り付く。

 この体勢がかつて顧問に釣られてやっていた虐めの手法、グラウンドパンチだと気付いたからだ。

「なぁ、悪かったよ。つい出来心なんだよ、許して…ひぃ!?」

 上っ面だけでも謝ろうとしたリーダーの男だったが、瞳がより鋭くなるのに気付き、恐怖に打ち拉がれる。

「ゆっ、許して下さい許して下さい許して下さい! もう二度と空手はしません! あのアマたちにも近付きません! だから、許してぎゃあああああ!?」

 謝り続けるリーダーの男に対し、一心は彼の顔を擦れて、コンクリートの地面に正拳を放った。その地面は小さなひびのクレーターが出来上がり、それを見たリーダーの男は失禁した。

「てめぇのような豆鉄砲の腕っ節でいかに殴られようが眼中に無え。奈緒にサンドバッグにされた方がよっぽど堪えるんだよ。」

 それを見た近くの悪漢はその男を直ぐに見限り、彼に変わって、他の悪漢共に罵声を浴びせる。

「テメェら、こいつはもう使い物にならねぇ! 俺たちでこいつらを襲うしかねぇ!

もう後がねえ! 殺るぞ!」

 徐々に憤り立つ悪漢共。しかし、すぐさま、多くの足音が聞こえた彼らが見てみれば、大扉の方から空手胴着を着た屈強な青年たち数百人が現れ、悪漢共を包囲した。

「お疲れ様です! 次期師範代! 言われました通り、神雷みかずち会の免許皆伝者全員をお連れしました!」

「感謝するが、相手は武器を持っている! 対武器戦を想定しろ!」

「はい! てめぇら、空手を穢した屑共全員を完膚なきまでに知らしめろ! 俺たち空手家の誇りを! 空手最強を!」

「押忍!!」

 空手家たちが悪漢共を全滅させるのに時間は掛からなかった。

 例え、ナイフを持っていたとしても、それらの武器を児戯の玩具として払い除け、まるでヤクザの抗争に苛烈さを極めた後に瞬く間に制圧された。

 

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