fighter1:鬼門蓮火・中編
真っ当な格闘家にはなれない私は齢10歳で引退しようと考えるほど異常な精神に病んでいた。我が家に戻り、自室に篭っていた。
憧れた格闘家や格闘団体のポスターを破り捨て、それらに関するグッズを荒らしたその部屋はひどく無様で殺風景だった。
「だから、言っただろう。格闘は楽しいものじゃないと、俺もお前と同じく、多くの格闘家に勝ったが、病院送りになった彼らは二度と格闘を志すことはなかった。幾つもの当主もそのことを経験した。」
「もう良いよ。こんな気持ちになるなら、格闘家なんて目指すんじゃなかったよ。私は鬼。だから、外なんて出ない。ずっとここにいる。」
ドア越しから聞こえるお父さんの指摘は冷淡でありながらも、的確だった。そんな親はドアの下隙間からあるチラシをくれた。そのチラシにはある町内で行われる少年少女空手大会があった。
「お父さん、私は格闘なんてもうやりたくないって言ったのに。」
「この空手大会はな。俺が前に言った悪友の空手家が館長をやってる武道団体が主催なんだ。その大会で最後にしてもいいし、この大会で何かを見出せば、続けてもいい。やると一度決めたならやり遂げる意志を手放すな。」
「格闘嫌いなお父さんに何が分かるの?」
「確かにお父さんは格闘嫌いだ。暴力から逃れられない格闘家の生き方はごめん被りたい。だがな、悪友であるあいつと繰り広げた今までの闘いを俺は絶対に後悔はしない。」
私は結局、空手大会に出た。小学生によるエントリー限定だったけど、実力と修練を重ねていた。しかし、私は勝ち続け、淡々と決勝に向かった。
私はどこかの講堂にある決勝の舞台に上がった。後ろから恐怖という視線に刺され、ざわざわと静かに陰口を叩かれる。
「昆地木小学校で有名だったゆめちゃんがあの子のせいで骨折したんだってやあねぇこんな子供の戯れに本気になって。」
「胡練手道場のさきちゃんは病院送りにするなんてね。オリンピックに出たがっていたあの子が可哀想で可哀想で。」
「あれは鬼よ、悪魔よ、人殺しの人でなしよ。」
私はだんだんと蔑まれる度に精神と視界が暗くなるように蝕まれ、息と心臓の鼓動が緊張のあまり荒々しくなる。
「大丈夫? 緊張してるの? いつも通りにやることを意識すれば平気だよ!」
そんな私に声を掛けた人がいた。それは対戦相手である黒髪黒瞳の少女で、彼女の輝いた瞳に吸い込まれそうだった。
「私、鋼原奈緒! 貴方と闘うの楽しみにしてたんだ! 凄い技で勝ち続けるなんて、素敵だよ! 早く試合を楽しもうね!」
私はそんな彼女に罪悪感を生じた。また傷つけてしまう、また忌み嫌われてしまうと。
だから、私は適当な体捌きと技で手加減し、わざと一本を取らせた。
しかし、彼女はそんな私を当たり前のように気が付いた。
「ねぇ、何で本気を出さないの? こんなんじゃ一緒に楽しめないよ!」
もう観念しよう。私がこの大会で得るものは何も無いんだ。私はもう誰も傷つけたくない。
「審判さん。私、棄権します。」
「何でよ!? 私はこんな勝ち方嬉しくないよ! 何で本気で闘ってくれないの!?」
「私が本気を出したら、貴方を怪我させてしまうから、終わらせてしまうから…」
目を逸らしながらその一言言った瞬間、殺伐とした悪寒を感じた。蛇に睨まれるような鋭い視線を向くと、ドス黒い
「へぇ、舐めてるんだ。勝ち続けて調子乗ってるアンタとアンタが実力を知らない私と。」
「あの…えっと、これには私の血縁というか、一族に深い訳があっ、でぇ!?」
彼女の持つあまりの怒気に慌てた私は訂正しようとしたが、その瞬間に私の下腹部に熱く痛いものを感じた。意を決して下を見れば、私の腹は前蹴りされていた。
「いっ、痛…!? あっ、あの!?」
「審判! 今までの技が当たる条件の三本勝負じゃなくて、相手が気絶するまでのガチな勝負がしたいの! ルール変えてくれる!」
「はっはっはっ、威勢が良いね! 分かった、この勝負は目突きや金的以外の真剣勝負だ! 思う存分やってくれたまえ!」
「えっ、審判さん!? それって大会の規定違反じゃ…わっぷ!?」
審判さんに抗議しようとした私は気付いて避け、頭に掠れた摩擦熱を感じた。彼女は回し蹴りをやったらしい。という事は顳顬を狙って、脳を揺らせ、気絶させるつもりだったのかというのは彼女の顔を見て気が付いた。
彼女の顔は茹蛸顔負けの真っ赤に照り出し、歯軋りをしていた。
「覚悟しなさい! この鋼原流空手の次期師範である私を虚仮にした事を後悔させてやるわ!」
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