パーティーピーポー

遠藤

第1話

「もちろんSコースで」


神様からの質問に、その魂は前のめりに答えた。


(ふう)


神様は思わずため息をついた。


「確実に学べるよう、Bコースあたりに変更ではどうかな?」


神様はこの魂の慎重さの欠片もない、勢いだけの判断に、少々困惑していた。


「大丈夫っすよ!なあ皆!Sコースいけるよな?!」


後ろに並んでいる無数の魂達が、一斉に声を上げる。


「S!S!S!」


神様はまた、ため息をついた。

ある意味、素晴らしいポジティブさ。

こちらの言葉で言えば、冒険者、勇者。

地球の言葉で言えば、単なるバカと言えた。


ただ、この魂のエネルギーは、宇宙にとってかけがえのないものであった。

圧倒的ポジティブパワーは、宇宙の均衡を保つのに、大いに役立っているのだ。


いちいち呆れるのも疲れるので、神様は最後にもう一度だけ確認をした。


「Sコースは大変厳しいぞ。それでも・・・」


またしても、神様の話を遮るように、この魂は前のめりに答えた。


「大丈夫っすよ。そんなに心配していると、神様も病気になっちゃいますよ。なあ皆!!」


「S!S!S!」


どうも魂達は集団になると、意に反して興奮してしまうようだ。

地球で、良くないことを学んできてしまったのではないかと、神様は少しばかり心配するのだった。


「では、Sコース学んできたまえ」


正直なところ、この魂には、Sコースを乗り越え、次のステージに上がってほしかった。

最近は、Sコースを選ぶものもほぼおらず、また、わずかな冒険者も、この魂のように、勢いでSコースを選んだとしても、すぐさま離脱してくるものばかりの状況だった。


Sコースを卒業できるものが減ると、この宇宙を支えるエネルギーが足りなくなってしまい、不測の事態が発生しかねない状況となっていた。


「そんじゃーいってきまーす!皆、アディオス!!」


大歓声に見送られ、その魂は人間として生まれるために、流星となって降りていった。


神様は見送りながら、是が非でもSコースを卒業してほしいと、強く思いを寄せるのだった。

その後の魂達は、ほぼBコースかCコース選択で、まれにAコースがいるという現状に、これはこれで悩みがつきなかった。



神様も、思い悩んだことはあった。


わざわざ苦しみや困難を体験することに、何の意味があるのだろうかと。

今ある皆のエネルギーでバランスを保てれば、それでいいのではないかと。


しかし、学ぶことが無い魂達は、徐々にエネルギーが弱まって行くばかりだった。

皆のエネルギーが弱まると、宇宙のバランスが崩れ、全ての終わりが起きてしまう。


それは神様にとっても、由々しき事態であった。


全てを創造したときから、辿り着く場所は在り、その流れは絶対であって、本来は揺るぎようのないものであった。

しかし、それでは一本の真っすぐな道であって、何ら創造せずとも、存在させることは容易であり、正直言ってしまえば、つまらないものであった。


無数のエネルギーが複雑に絡み合い、何本も細い道を作っては引き返し、それでも前に進んでいく。

それを繰り返しながら、やがて太い道ができていく。

その先にある辿り着く場所、それはそれは格別なものだろうと創造したのだった。

そうして、皆によって創られる道で、辿り着くことを決めたのだった。


そのためには、魂の成長が絶対条件だった。

どんな困難も突き破る、強く光輝くエネルギーが必須条件なのだ。


魂を輝かせるためには、多くの学びが必要であった。

その学びが深ければ深いほど、魂は強く輝いていく。


やがて神様は、今までの惑星とは違う星を創造した。

それが地球だった。


他の星にはない環境は、やがて多様な学びを生み出した。

神様は、さらなる学びの深みを得るため、人間を創造したのだった。


人間は、今までとは比べ物にならないほどに、魂を成長させていく。

神様が思っている以上の進化と豊かな感情は、ある意味想定外で、神様であっても、この人間というのは、どこへ向かっていっているのか、分からなくなってくるほどだった。


破滅なのか、それとも、自ら創造主にでもなろうとしているのか。


一度、人間に入った魂は、何度も人間での学びを求めるものが多くいた。

人間が生み出す多種多様な感情は、魂達にとっては衝撃的であり、大いに好奇心が芽生え、もっと深く学びを探求するものが続出した。

人間のままでずっと居たい、もっと人間と触れ合っていたいという魂も出てくるのだった。

そのため、何とか人間の寿命を延ばす研究をするものや、予定した学びが終わっても、別の学びを求める魂まで出てくるようになった。


もちろん、人間になるのを恐れるものもいた。

過去の学びで、人間の愚かさや恐ろしさを知り、その状態で離脱したものや、学びの一環として、生物を傷つける側になってしまったものだったり、はたまた、こちらで他の魂から、人間の話を聞いて怖くなってしまい、宿ったばかりの準備段階から、強制離脱をしてしまうものが出てしまったりしていた。


魂は、この地球での学びを経て成長し、やがて宇宙のために還っていく。

神様が目指す、皆で辿りつける場所のために。


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