第11話

 「今日の授業はどうでした? ファビア」


 ディナー時に、リサおばあ様が私に話しかけて来た。


 「僕も知りたい!」


 エメリック様も興味津々。

 それについて、侯爵夫人が注意しないところをみると、話してもよさそうね。


 「今日は、魔法を初めて使いました」

 「まあ、それでどうだったの?」

 「はい。詠唱を暗記しなくてはいけなくて、一回目は成功したのですが、二回目に詠唱を間違えてしまって発動しませんでしたわ」

 「それって、色んな魔法の詠唱を全て覚えないといけないの?」


 エメリック様が驚いた様子で聞いた。

 そうなるとは思うけど、本来自分が使える属性のを覚えるだけだからね。言われて気が付いたけど、私は全て使えるから全て覚えるとなると、膨大だわ。


 「そうなると思いますけど。私は魔法を使うと言うより、マジックアイテムを作る職に就きたいと思っておりますので、魔法陣を覚えればいいかと思います」

 「え? 魔法陣って何? 魔法とは違うの?」


 エメリック様が聞くも、全員知りたい様子。


 「魔力を込めながら円の中に図形を描きます。それが発動させる為の下準備になり、また魔力を注ぐと発動するのです。マジックアイテムは、その下準備された魔法陣が描かれているそうです」

 「まあ、そうでしたの。便利ですものね。そういう風に作っていたのね」

 「面白そう……」

 「エリック。あなたはこの侯爵家を継ぐのですから魔法学園には行けません」


 エメリック様が興味を示すと侯爵夫人が釘を刺す。

 昨日よりは幾分和やかなディナーの時間となった。

 明日は、学園に行ってから初めての休日。まったりしようと思うけど、詠唱の暗記を明日もサボらずしないとね。



 「ファビア様。ご家族がお見えです」


 朝食を終え、教科書を眺めているとローレットがそう伝えに来た。彼女には、専属だけど傍にいなくていいと伝え、リサおばあ様からの承諾も得ている。

 なので、学園に行っている間に掃除をお願いした。


 「お父様が来たのですか?」


 心配で様子を見に来たのかしら。


 「いえ。ご家族です。三人でお越しになりました」

 「え……」


 マリーまで連れて来たらしい。よく連れて来たわね。

 彼女にとって、この屋敷にいい思い出などないと思うのだけど。

 私はいつも美味しくケーキなど頂ける場所だと喜んできていたけど、ココドーネ侯爵家の血を一滴も流れていないマリーは他の子供達から無視されていた。

 私の隣に来ては、一緒に話しに行こうと誘われて迷惑だったなぁ。


 マリーの様に再婚で親族になった子供はいる。結局その子達と遊んでいたけど、数人しかいない。

 子供達が、16歳未満の時に片親になった時に再婚をするので、実はそんなにいないのだ。

 それに母親だけになれば、実家に戻る。つまり廃爵になってしまうのが一般的。

 なので、お父様には私が卒業するまでは、元気にいてもらわなくては。


 「ファビア。来たわよ」


 部屋から出ようと立ち上がったのと同時にノックの音が聞こえ、ドアが開いてマリーが入って来る。

 まだ、返事を返していないでしょう。ローレットも驚いているわよ。


 「わぁ。凄く広い! ねえ、これなら私と一緒に使えるのではない?」


 なぜに一緒に使わなくてはいけないのかしらね。


 「何を言っているのよ。家主の許可なく他人が住めるわけないでしょう」

 「そんな言い方しなくてもいいじゃない。ねえ、屋敷を案内してよ」

 「リサおばあ様が許可したらいいわよ。でも私、よくわからないわよ」


 別に屋敷の中を案内してもらってはいない。

 一応、リサおばあ様とエメリック様のお部屋は知っているけど。後は、自分が行った事がある場所しか知らないわ。知る必要もないし。


 「いちいち、許可が必要なの?」

 「当たり前でしょう。私は、部外者なの。善意で間借りしているだけよ」


 しかも多分、無償で。


 「でも私がいなくて寂しくない? 寂しいなら毎回来てあげるわ」

 「……結構よ」


 きっと、住むのは難しいとわかったのね。継母が言えば角が立つ。だからってマリーに言わせ、私からリサおばあ様にさせるつもりね。

 私の言う事なら聞くだろうと。


 別に私は、リサおばあ様のお気に入りではないのだけど。

 ただ珍しく魔法博士になる子ってだけよ。

 今まで贔屓された事などないもの。

 

 「わぁ。凄い! なぜこれ着ないの?」


 気づけばマリーは、部屋の中をあちこち見て回っていて、クローゼットを断りもなく開けていた。

 ローレットは止める事無く彼女を無表情で見つめている。

 もうやめてよね! 常識がないと思われているじゃない。いやマリーにはないのかもしれない。

 おかしいな。私と同じ教育を受けたはずなのに。

 ここ侯爵家の屋敷なのよ!


 マリーは嬉しそうに、用意されていたドレスを体にあて、姿見を見てうっとりとしている。


 「マリー、やめて。汚したりしたら大変よ。借り物なのだから」

 「もういいじゃない。ここって孫娘いないのでしょう? だったらここを出る時に頂けるのではないの?」

 「その頃には小さくなっているわよ」


 マリーから取り上げしまうと、クローゼットの扉をしめた。


 「何よ! お母様に言いつけてやるからね!」


 私は間違ってないから、お好きにどうぞ。

 そうは思ったけど、大泣きしながらはちょっと、恥ずかしいのですが……。

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