第10話

 あわわ。やばい、やばい。遅刻する!

 まさか起こしに来てくれないとは。ベッドの寝心地が良すぎて寝坊してしまったわ。

 7時半には出ないと遅刻なのに、7時過ぎてるのですけど。


 慌てて身支度を済ませる。

 お風呂場で顔を洗い、制服に着替えて髪を梳かす。ここではぼさぼさのままでは叱られるでしょうからね。一つに束ねるのは、いつも通り馬車で行いましょう。

 持っていく物の用意を昨日のうちにしておいてよかったわ。


 「ファビア様。お時間です」

 「あ、はい」


 部屋を出ようとしたところでローレットが呼びに来た。

 ドアを開けると、ローレットが驚いた顔をする。


 「おはようございます。私、もう出ないと遅刻するので、朝食はいりません」

 「そ、そうですか……。そのようにお伝え……」

 「待って! その前に、馬車の用意が先よ」

 「わかりました」


 言えば一応すぐに手配してくれた。

 と言うか、伝えてあったとみえて、馬車は待機していて安堵する。


 「いってきます」

 「いってらっしゃいませ」


 ローレットに見送られ、馬車は侯爵家の屋敷を出て魔法学園へと向かう。

 二度寝をする時間はないけど、髪を一つに束ねる時間なら十分にある。

 あぁ、朝食楽しみにしていたのに、ちょっと残念だわ。


 無事、遅刻せずに学園に到着して、教室へ入る事ができた。


 「では、今日も魔法陣を描く練習を行います」


 魔力を安定して出せる者は次の工程、魔法陣を描く事を行っていた。

 得意属性がある者は、魔力にその属性が漏れ出す。それを抑え無属性にして魔法陣を描かないといけない。

 つまり私は、無属性なので魔力量を調整して出すだけでいい。


 一番初めに描いた魔法陣は、魔力を留めておく魔法陣だった。これにより、魔力がなくなった時に使えば、魔法が使える。

 次に、得意魔法の魔法陣。私にはないので、好きなのを選んでいいと言われたので、闇にしようと思ったらダメだと先生に言われてしまった。


 どうやら闇魔法を使える事は内緒にしなくてはいけないらしい。闇だけは、特殊な魔法らしい。

 なので光魔法にした。

 描く魔法陣は、明かりを灯す魔法陣。

 光の魔力を込めながら魔法陣を描く。これも一発で成功。


 でも一日に午前と午後の二回しか失敗しても成功しても、今はまだ行わせてもらえない。それは、魔力切れを起こすかもしれないからだ。

 毎日、魔力を使う事で魔力を増やす事ができるらしい。


 すでに私は、光魔法、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法を終えてしまっていた。

 なので次の工程に移る事になり、とうとう魔法を使う事となった。火や水など直接出現させる魔法よ。

 ワクワクするわ。


 周りではすでに進んでいる人がいて、羨ましかったのよね。他の人は、得意属性とその他に扱える属性の魔法陣を描く。

 横目で見ていたところ、大体の人が得意属性のみだった。驚きの一種類。


 魔法を発動する為には詠唱を暗記しなくてはいけなくて、結局その暗記に時間を取られた。

 詠唱しつつ渡されたロッドに魔力を溜める。

 最終的には、ロッドがなくても出来るようになるらしい。感覚を掴むまでは、こうしないと直接手の上に火を出現させてしまったりすると火傷する事があるとか。


 午前中に一度行って、私は風を起こす事に成功した。嬉しさに舞い上がるも昼にもう一度行ったら出来なかった。それは、詠唱をちゃんと言えなかったから……。

 時間が経つと忘れちゃうのよ。

 学園の外では魔法を使えないから詠唱しても魔法は発動しないので、詠唱の練習をするように言われてしまった。


 九九の様に毎日練習して覚えて、毎日使わないと忘れちゃうよね。こうして、今日一日は詠唱の暗記で過ぎ去ったのだった。



 「ファビア、少しいいかしら?」


 ディナー 前にリサおばあ様が部屋を訪ねて来た。


 「何でしょう。あ、今朝はご挨拶が出来ず申し訳ありません」

 「それはいいわ。時間がなくて朝食も取れなかったのですもの」


 そう言えばと思い出し言えば、それではないらしい。


 「今朝、ローレットは起こしに来たかしら?」

 「はい」

 「本当に? それでは今朝は、二度寝をして朝食を食べられなかったという事であっておりますか?」


 二度寝? 一度起こしに来ていたの? ……いや来ていないでしょう。もし自身で起きられていなかったら完全に遅刻よね。

 遅刻しないように近くに来たのに初日から遅刻では、リサおばあ様の面目も立たない。危なかったわ。


 でもローレットが起こしに来なかったのは、侯爵夫人の仕業よね。それでも彼女がワザとそうしたとなれば、首になる可能性が高い。

 それはそれでローレットが可愛そうだし、新しい人が真面目過ぎると、私的には過ごしづらいのよね。


 「確認が遅かったかもしれませんが、彼女を責めないであげてください。私は元々実家では自分で着替えなど行っておりましたので、その点は大丈夫です。ですが、掃除だけはお願いしたいので、彼女に頼んでも宜しいでしょうか」


 私がそう言えば、リサおばあ様は目を丸くするも、わかりましたと頷いた。

 男爵家や子爵家では、専属侍女を雇うだけのお金がない場合があり、その点もリサおばあ様はわかっていらっしゃるはず。


 「ファビア。何かあったら遠慮せずに私に言いなさい。ここでは本来、着替えなどのお手伝いも彼女の仕事。専属になったのならあなたに断られた事を私に告げ、判断を仰ぐものなのよ」

 「はい……」


 やっぱり庇った事がバレているわね。

 まあ庇った理由は、リサおばあ様が思っている事とは違うけど。彼女の為ではなく、自身の為だからね。

 でも今回の事は、目をつぶって下さるようね。

 よかったわ。これで何か罰があれば、きちんとされちゃうものね。

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