第5話

 思ったより大変だった。

 何が大変かと言うと、通学よ。学校は、朝8時に始まるのよ。8時よ、8時!


 学園には、急いでも2時間半掛かるの。

 制服だから着替えはいいとして、継母がちゃんと髪は結って行きなさいって言うのよね。

 後ろに一つに束ねればよくない?

 おこちゃまが髪型を整えて行ったって、意味ないと思うのよ。


 「そんな時間ないわ。5時起きでも間に合わなくなるわ」


 そう言って、後ろに一つに束ねて通っている。

 朝5時に起きて、朝食を食べ着替えて馬車に乗り込む。馬車の中で髪を整えていた。ついでに二度寝もする。

 一週間通ったけど、今まで遅刻はない。

 でも凄く大変なのよ! やっぱり宿舎から通いたいわ。


 クラスでは、背が低い事もあり一番前の席。

 驚く事に、Cクラスが四つ。私はC1クラス。

 魔法の基礎の勉強を今やっていて、実技はまだ行っていない。


 まずは、魔力を安定して出せる様になるまでは、次に移れないと言われた。

 週に一回、その試験を行い合格した者から次の工程に移る。


 この世界は曜日は存在していなくて、一週間は5日。それが10週あり50日で一か月。それが10か月あって一年、つまり500日で一年。わかりやすいけど、長いよね!

 でもね、一日が24時間なのは変らないのよ。


 この国には、明確な四季はないから一年通して同じような気候。多少、日の長さが変わる程度。過ごしやすくていいわ。

 なので、実質5日間学校に通ったわけよ。因みに学校には、2週連続で通い、2週目の最後の日だけお休み。長いわぁ。


 魔力を安定して出せる様になったと自分自身では思っているので、明日からは次の工程に移れると思っている。

 問題は、馬車に2時間半も、いや帰りを含めると5時間も移動時間に取られるって事よ!

 なので、今日お父様にダメもとで言って見ようと思うの。


 「お父様。馬車で通うのは大変なの。往復で5時間よ。宿舎から通いたいわ。私は、自分で制服着れるし、お風呂も入れるし、髪を束ねるだけなら自分で出来るし。いいでしょう?」

 「ダメだ!!」


 思ったより凄い剣幕で、拒否された。


 「いいか。魔法学園を卒業しても、貴族学園には通ってもらうつもりだ」


 え……貴族学園に通わせる気なの?

 まあ順調に卒業できれば、普通に14歳から通えるけど。


 「貴族と結婚する為には、貴族学園に通っていなければ嫁に行けないのだ。自身で手に職をつけて働ける事になっても、結婚が出来なければ意味がないではないか。宿舎に一人で何年も居れば、身に付いた所業も忘れるだろう」

 「………」


 そうだった。ここは日本ではないから、娘が結婚しないとお父様も後ろ指をさされるのよね。

 一応、家庭教師をつけて色々学んだのだからそれを意味がなさなくなるのは避けたいのね。


 「ねえ、あなた。だったら王都に住む親族の方にお願いしてみてはいかがかしら?」

 「そ、それは……」


 お父様は困り顔だ。

 そりゃそうだ。王都に住む親族は、一件だけ。もちろん本家のココドーネ侯爵家。

 親族と言っても直系ではない。しかも今の当主とは、かなり関係が薄い。歯牙にもかけないだろう。


 もしかして継母は、本家との関係を持ちたいの? いや無理でしょう。あなたは後妻よ。

 きっとマリーを本家と近い者と結婚させようと思っているのかもしれないけど、難しいと思う。


 婦人の集まりで全く相手にされていなかったと言うのに、どうしてそういう希望を持てるのだろうか。

 再婚相手として子爵家へ嫁げたのだからそれで満足してよね。


 「聞くだけ聞きましょう。私も付き添いますから」

 「そ、そうだな」


 私の憶測は当たっているみたいね。

 お父様も、宿舎から通わせるのは反対だけど、ここから通わせるのも可哀そうとは思っているのね。


 「私も一緒に行くわ。自分自身の事ですもの」

 「まあしっかりものね。でも大丈夫よ。あなた昼間、学校があるじゃない」


 そうだった。うーむ。終わるのは午後3時すぎ。帰りに寄るとか?


 「いや、一緒に行こう。午後からならファビアも来れるだろう。本人が言わないとたぶん、無理だ」

 「うん! そうしましょう。お父様」


 こうして、お父様は本家に打診して、数日後学校が終わった4時半頃にお伺いする事となった。

 とにかく、王都なら一時間以内に学校に行けるからかなり楽になるわ。

 さて、どうやって口説き落とそうかしらね。


 ――◇――◇――◇――


 まさか受かってしまうなんてね。マリーをあの子とすり替えるつもりだったのに。でも、あの子がいないのなら、乗っ取り上手くいくかしらね。


 ユリナ・ブレスチャ。見た目も変わらない。前妻と同じ名前に見た目髪色

 運命だと言って再婚してくれた。あの子とマリーは、一つしか違わない。だったら娘がすり替わっていても……。

 あのばばぁさえ死んでしまえば、きっとうまく行く。


 まずは、初等科に行かせないつもりだったけど。

 本家なんて、傍系の些細な事など気に掛けない。魔法学園を卒業して戻って来た後は、言いくるめればいい。

 マリーがブレスチャ家の本当の子という認識になればいいのだから。


 それに、上手くいけば本家に取り入る事ができるかもしれないわ。そうすれば、そんな危ない橋を渡らなくてもいいのだから。

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