証言者のオフ・レコ

柩屋清

1話完結

「この踏切わきで人身事故がありました。何か知っている事などあったら教えて下さい」


刑事はそう言って、男二名ふたりを呼び止めたーー

あたりは電灯が少なく、夕刻を過ぎると女性はおろか、男性のひとり歩きさえまばらである。


「よろしければ死亡した男性の顔写真を、確認して下さい」


そう言って刑事はファイルに納まった資料を覗くよう促した。

どうやら死んだ男の身元が判らないらしい。


「ホーム・レスという噂ですが・・」


長身のつかさ拓馬たくまは社内での情報を呟いた。

一方、もり亮壱りょういちは、その資料を手に、じっと見入っている。

冬の夜、吐く息も白く早く帰宅したい趣だ。


*****


「我々は、その日、シフト上、休日ひばんでした」


森がファイルを返却がてら、刑事に事故当日の件で、そう返答してゆく。

刑事は平日・休暇を取っていた彼達にえて職種を尋ねた。


「携帯電話の修理工です」


土日でも即日、修理完了を求められる方向性に合わせ、全員でシフト制を取っていると言うのだ。脇では遅れて来た別の歩行者に女刑事がビラを手渡ししている。


「では、電話番号、住所、勤務先の判る範囲までの記入、よろしく御願いします」


刑事は、アリバイのまだ取れない、この二名ふたりから個人データを引き出した。


「免許証も持っています」


そう言って、えて疑われやすい自身を悟ってか、森は刑事にそれを差し出した。

ーーなら、オレも・・司もバッグよりかさず、それを手渡す。白髪の上官らしき刑事は少し離れた所で、その情景を直視していた。


*****


「オマエ、警察、嫌いか?」


司は尋問を終えて横浜行きの列車のガード下にて森に問うた。


「最近、原付運転中に或る踏切で減点された」


「どうして?」


「一時停止したんだが顔が九十度・左右に、それぞれ向かなかったからーーだと!」


「・・なら、オマエが悪いじゃん」


「でも、その前に三十キロ以上出して、オレを追い起した原付は捕まえなかった・・」


司は ”そういうモノだ” と言って笑って相手にしなかった。

しばらく沈黙して、悔しいからか森は司に応戦し始めた。


「あの事件、犯人、判ったよ」


「何、言ってんの?オマエ」


「実はオレ、千里眼なんだ」


疑う司の財布に手をかざし中の金額を的中させ、更にあの時、ファイルの写真にもてのひらを乗せて、事件の事実を把握したとも言う。


*****


「死んだ男は毒入りコーヒー事件(未解決)の犯人の一名ひとりを知っていた男・・その一名ひとりが別件で任意出頭する朝に首を吊って死んだ。人身で死んだ男は警察より早く、その死を知り、自殺した家より逃亡する姿を、あの刑事達に見られた・・警察は未解決事件の解明の機会チャンスばかりでなく己の失態の情報の拡散を恐れていたのだ」


「本当か?」


司は森の供述を半信半疑で呑み込んだ。


「残念だが、世の中ってヤツは疑って、疑って、最後に信じられる分量だけを”信用”と呼ぶらしいぜ」


森は少しキザに司に、そう伝えた。

ネット内の動画に人身で死んだ男が、匿名でアップしているというタイトルも森の進言で司は発見する。

あれは人身事故ではなく殺人で、犯人はあの刑事達であり、犯行を見た目撃者が居ないか、密かにウラを取っている作業中であったのだ。


(了)

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