第23話:集う悪役令嬢達、主人公を加えて

 最初のお茶会から数日後、俺はかなり頑張ってセリナ嬢の好みを調べ上げてお茶会の準備を終わらせてシズク以外の悪役令嬢達&主人公を待っていた。


「流石ねカグラ――完璧だわ」

「あざっす、ちょっと苦労したけど……なんとかなったぞ」


 流石に関わりのないセリナ嬢の好みを探るには彼女の取り巻きと話さないといけなくて……めっちゃ取り繕って情報を集めた三日前、それは普段しないような慣れない態度だったのだが原作のカグラのムーブを覚えていたからこそなんとか出来た。


「少し見たけど、貴方敬語使えたのね」

「……そりゃな。でもあんたは敬語使うの嫌がるだろ」

「貴方の敬語とか慣れないもの……使われない方が良いわ」


 俺としてもシズクに敬語を使うのは慣れないし、何より彼女が嫌がると知っているのであまり使う気はない。

 そんなやりとりを交わしながらも約束の時間を待っていれば、部屋の扉が開かれて見慣れた少女達が入ってきた。 


「……我等が一番乗りか。カグラ、リィンを連れてきたぞ」

「え、えっとシズク様カグラ様お邪魔します!」

「緊張しなくていいわよ。私が招待したんだから自信持ちなさい?」


 やってきたのは鏡月とリィン。

 鏡月は何も気にしない様子で椅子に座るが、リィンはいまだ慣れないようで恐る恐ると座り始めた。そしてそれから約束の時間の五分ほど前になり、再び扉が開かれさっきと同じように二人の少女達が入ってきた。 

 

「いらっしゃい二人共、こうして会うのは初めてね」


 やってきたのは、招待した紅髪の公爵令嬢であるセリナ。そんな彼女は後ろに隠れる銀髪の女性を連れ、悠然とした態度で挨拶をした後に用意されている椅子に座る。


「あぁ、招待に預かり光栄だシズク様」

「わたくしも嬉しいです。よろしくお願いしますね、シズク様そして鏡月様。そちらの方も」


 連れられてきたのは、アンリルートの悪役令嬢……というか聖女であるレーシュ様。銀の髪に銀の瞳を持ったその人は――剣の聖女と呼ばれていて、聖なる力を持った武器を作ることが出来る魔法を持っているアンリ・ドゥ・オブリの婚約者だ。


「しかし、なぜお前がいるのだ?」

「……あ、えっと。私は」

「私が招待したの。この子もニーア様に選ばれた同じ特待生だもの」


 周りを見渡しリィンの存在に気がついたセリナは少しきつい視線を送ったがすぐにシズクがそれに助け船を出した。

 その言葉を聞いて納得したのか、それ以上の追求はなく――悪役令嬢四人とこの世界の主人公であるリィンを交えたお茶会が始まった。


「改めて自己紹介ね、私はシズク・ヨイヤミ。和国から来たわ」

「我は鏡月――羅華から来た。そこにいるカグラの嫁だな」

「……ねぇ鏡月? 最初ぐらいはちゃんとしてほしいのだけど……」

「しかし、第一印象は大事であろう? それに既成事実というのも」

「意味が違うわ、勝手に人の従者を取らないで」


 相変わらずの二人の様子に少し笑いそうになったが、こんな場所では笑えないのでなんとか堪えて残る三人の自己紹介を待つことにした。


「……セリナだ。セリナ・レグルス。一応この国では公爵令嬢という立場になるな」

「わたくしはレーシュ、レーシュ・ルチーフェロです――本日は本当にお招きいただきありがとうございます」


 そしてさっきのやりとりを見ながらも普通に挨拶をしてくれる二人の少女。

 最後にリィンが自分の名を名乗り、それで終わりかと思ったんだが……なぜか視線が俺の方に向いた。


「カグラ・ヨザキ、シズク様の従者だな。今回の準備を殆どさせて貰った、どうか楽しんでくれると助かる」

「貴殿が和国の英雄殿か」

「……噂通り強い方なんですね、魔力の流れに一切無駄がないです」

「分かるものなのね」

「はい……聖女の教えに他者の魔力を見る術がありまして」


 そういえば、リィンがアンリルートに行った際は彼女はレーシュの立場に成り代わるんだが、その時専用で相手の力量を確かめる魔法を覚えていたはずだ。

 それで見たんだろうと分かるが、ゲーム設定的にも強いレーシュから強いと断じられるのは鍛えてたかいがあったな。


「それで、今回の集まりの目的は……そいつの挨拶か?」

「ええそうよ、この子はアステール王国の子だものね。派閥的にこっちにいれてもいいけれど、やっぱりそっちにいた方が気が楽でしょう?」

「それであれば、手紙を出してくれれば応じてはいたぞ。存在は知っていたからな」

「――ふふ、私も貴女と喋りたかったじゃ駄目かしら?」


 くすくすといつものような笑みを浮かべて主は笑う。

 変わらないなぁほんと……とか思いながらも、二人が視線を合わせている間気が気ではなく少しの肌寒さを覚えてしまう。


「そういうことにしておこう。でだ挨拶の件に関しては気にするなとしか言えんな、私は今貴様に構っている余裕がないからだ」

「……えっと、私は学園にいていいのでしょうか?」

「そもそも学園長であるニーア様が決めた特待生に何かする方がおかしいのだ。下手に関われなかったから放置していたが、これも縁だからな見かけたら一言ぐらいは言っておいてやろう」

「ありがとう……ございます」


 意外だなと、それで思ってしまったんだがセリナのゲームのイメージを見るにもうちょっと激高しやすく覇気のある少女ってのを持っていたが、これだけだとかなり優しく感じる。まぁ、それは他のシズクや鏡月を見ても思うことなんだが……。


 その後はお茶を飲み、俺が用意した菓子を食べながらも時間が進んでいき……今回のお茶会は平和に終わった。


「改めて招いてくれて助かった。久しぶりに心地よく過ごすことが出来たぞ」

「わたくしからも感謝を、最近私達は余裕がなかったので」

「……それならよかったわ、カグラのお菓子は美味しかったでしょう? また機会があったら話しましょうね」

「カグラ殿が作ったのか? ……子供の頃からの従者だとは聞いたが、シズク様が羨ましいな」

「ふふ、いいでしょう? でもあげないわよ。彼は私のものだから」

「分かっている――では、帰るぞレーシュ」


 そうしてお茶会は問題なく終わり、リィンは少しだが後ろ盾を手に入れた。

 いままでだったら弱い立場の彼女だったが、これで少しは変わるだろうと……俺が関われなかった分の恩返しくらいにはなってればいいと思いながらも、その日は解散となり俺はシズクと共に寮へと戻った。

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