第5話:社の少女
――本来目覚めてるはずのない、このゲームの裏ボスの一人。
ゲームの敵としての名前は『???』であり、倒したとしても終ぞ正体を明かすことになかった最強格。
そんな彼女は、俺を見下ろしながらも全く俺に興味を抱いてないようで完全にハイライトの消えた虚ろな目をしている。
「……貴方、誰?」
体が重く刀すら構えられない。
――それでもなんとか言葉を発しようとしてそこで違和感に気付く。俺の前の前にいる彼女は戦闘形態に移ってなかったのだ。戦う時、彼女は巨大な骸骨を従えながら周囲に骨を纏っていた筈だ。
なのに今の彼女にそれはなく、それどころか配下の一人すら連れてない。それにゲームで戦ったときとは違って、言葉を発している。
作中では理解出来ない言語の言葉のみを発していたのに……だからこそ俺は考えた、もしかしたら戦わずにすむのではないかと。
「答えないの?」
そんな事を考えならが出方を窺っていると、その少女がてくてくじゃらじゃらと俺に近付いてきて目の前でしゃがんできた。
そして見上げながらも反応のない俺が気になったのか、頬をつついてくる。
「……何するんだよ」
咄嗟の行動にそうツッコんだが、喋ったのに驚いたのか少し後ろに下がった。
事前に警戒していた様子とはかけ離れた行動に、俺も驚いてしまい続く言葉を喋る前に彼女が口を開く。
「わぁ……喋った」
「喋るわ」
「じゃあなんでさっき……話さなかったの?」
「考えてたんだよ。というかお前、敵意とか無いのか?」
状況的に俺をはたき落としたのは彼女だろうし、今思えばなんで敵対していないのか分からない。だからこそ、そう聞いたのだが……彼女は首を傾げながらも。
「……なんで?」
「いや、さっき攻撃してきただろ」
「だって、驚いたから……」
「……一歩間違えたら死んでたんだが俺」
敵対しないように言葉を選びながら話しているのだが、なんといかやりづらい。凄く警戒していた手前、こんな風に会話が成立するとは思っていなかったし――何よりこうして接する裏ボス様はなんか普通の少女みたいだ。
「それは、ごめんなさい」
「……なぁ俺はこの奥に用があるんだが、行っていいか?」
なんか不思議な雰囲気の少女だし、敵意が無いしで頼めば奥に向かわせて貰えそうだったので俺はそう聞いてみた。
騙すみたいで気が引けるが、戦わないのに超したことはないし。
「なにも……ないよ? だから、お話ししよう?」
そう言われたら進めない。
多分ここの主であろう彼女は何があるかを把握してるだろうし、今の言葉が嘘だったとしてもこれでは無理矢理行く事は出来ないだろう。
だから俺に取れる行動をあまりなくて、取れる行動も絞られた。
……とりあえず、帰る方法は櫻の奥にある転移陣しかないので今はこの少女の話相手になることに決めた。瘴気がヤバいかと思ったが、何故か今それの影響がないので情報を手に入れる為にもそれが最善だと思ったからだ。
「……何を話すんだ?」
「なんだろう? ――そうだ貴方は、どこから来たの?」
「外だよ、船でこの社まで来た」
「外……それって、綺麗?」
「まあ、綺麗ではあるな」
「そう……貴方、名前なに?」
「カグラだ。カグラ・ヨザキ」
なんかぎこちない会話を交わしながらも、俺は彼女の質問に答えていく。
名前を聞かれたので答えれば、彼女は俺の名前を咀嚼するようにしてから……またゆっくりと口を開く。
「わたし……は、イザナ。イザナ・ヨモツ。よろしく?」
「よろしく。なぁ、気になったんだがお前は何でここに繋がれてるんだ?」
それはゲームをプレイしているときも思っていたこと。
他の最難関ダンジョンの裏ボス達は、滅茶苦茶強い爺さんや陰陽玉を模した双対の龍だったり、あとは機械の巨兵だったのは覚えている。
だからこその異質な少女。
一応乙女ゲーとして作られていたはずだし、少女が裏ボスの一人というのは不思議だったからこその疑問が俺の中に生まれる。
「気付いたら……ずっとここ。何百年も誰かが来るのを待ってたの」
「…………そうなのか?」
「うん、目覚めたらここだった」
少しだけ胸が痛んだ。
俺はこのダンジョンに武器だけを取りに来たし、何より彼女を目覚めないようにしていた。だからこそ、彼女と出会うことを考えてなかったし関わるつもりはなかった――だけど、こうして言葉を交わし境遇を聞くと同情というかなんといか変な情に襲われる。
「……寂しくないのか?」
「考えたことはない――それに、ここでは初めて人を見た」
「そうか……なぁ俺はさこの場所に刀を取りに来たんだが、それを知らないか?」
本当なら無視して刀を探した方がいいのだけど、こうやって関わってしまった以上無理矢理探すのは俺の性格的に嫌だった。
「刀? ……知らないけど、なんで取りに来たの?」
「強くなりたくてさ――俺はどうしても強くならなきゃ駄目で」
「そう……なら一緒に探す。坂は上がれないけど、この場所だけなら動けるから」
そう言って彼女は俺の手を取って進もうと言ってきた。
……接してみて分かったけど、この少女は真っ白だ。言葉を信じるならこの場所しか知らない、そんな少女。純粋だろうし、危険なのは確かだが今は敵意がない。
「……なら甘えて、探すか」
「うん――でも、どこだろうね?」
とりあえずこの場所の奥に進むために櫻の中に入りたかったが、初めて来たはずの俺がそれを知ってるのは不思議がられると思うのでゆっくりと周りを見て回ることにした。
「なぁ、お前……」
「お前じゃない……イザナ」
「じゃあイザナ、他に記憶ないのか?」
探している間ずっとてくてくじゃらじゃらと着いてくるので、その沈黙に耐えられなかった俺は思わずそう聞いた。
すると彼女は立ち止まり、すっごく考えた後で。
「一応……ある」
「聞かせてくれ」
「えっと……外でもずっと一人だった。毎日食事は運ばれるけど、誰とも話せなくて……他にもいっぱい踊ったり、神様? に祈ってた。だから人と話すのは初めて」
聞くだけでも不思議な境遇。
……それで分かったのは彼女が何処までも孤独であったという事で、ゲームでは敵だった彼女の事を考えるとやはりずきりと胸が痛んだ。
だって、一人の辛さという物を俺は今世で体験しているから。
「あとは、そう。話したことはないけど、覚えている事がある。最後には化物って呼ばれてた。それに悪魔とか……あとは、なんだっけ?」
淡々と話す彼女。
自分の身に起こったことを話しているだけだったが、それを聞いて彼女の事を他人事だと思えなくなる。平民ながら魔法を宿し魔物を殺す道具として使われた俺だから、化物と怪物と呼ばれてたから……。
「もういいイザナ。ここから出たくないのか?」
「分からない。でも外は気になる」
「ならさ――着いてこい」
探すのを中断して、俺は櫻の方へと歩き出した。
……そして、その下にあった小さい社に俺の闇魔法を注ぐ。
このダンジョンは俺の専用装備が眠ってる筈の場所、攻略方法としてイザナを倒してから闇魔法を使って道を開く必要があったんだが、こうして敵対してないならこうやって突破できるはずだ。
「……階段?」
「あぁ、ついてこれるか?」
「わかんない……でもなんかいけそう」
自分を繋ぐ鎖を持ちながらそう言った彼女は、階段を降りる俺に付いてくる。
後ろにいる彼女を逐一確認しながらも俺が先に進めば、先程よりも濃い瘴気が胸を焼く。咳き込みながらも進んで行き、なんとか辿り着いたのは五芒星が下に描かれ中心に刀が刺さっている空間だった。
そしてその奥には迷宮から帰るための転移陣が壁に描かれており、目的の物も見つける事が出来た。この刀を抜き、転移陣に触れば俺は帰ることが出来る。
……だけど、彼女を置いていきたくなかった俺はもう一度彼女に質問した。
「なあイザナ、俺は今から刀を抜いて帰るんだが……一緒にこないか?」
瘴気に犯されつつあるのか、視界がゆがみ始める。
……でもこれだけは聞かないといけないから、俺ははっきりとした意志で彼女に言葉をかけた。
「外は綺麗だぞ、それに俺にはさ将来的には怖いけど優しい主がいるんだ。きっとあいつならイザナを受け入れてくれるからさ、一緒にここから出よう」
俺は数日間だけしか、シズクと暮らしてないし従者の皆とも関わったとも言えない。だけど、あそこは暖かくてむず痒いけど優しい人がいっぱいで……きっとあそこならこいつを受け入れてくれるだろうから。
「――分からない、私はずっとここに居たから。でも、見ていたいかも」
「そうか、なら――尚更刀を抜かなきゃな」
ここにある俺の専用装備のフレーバーテキストは今も覚えている。ゲームだとスキル枠が多く攻撃力が高いのと闇属性の火力を上げるだけの武器。だけどテキスト的にこの武器は斬りたいものを斬る神刀と書かれていた。
――それならば、この彼女を繋ぐ鎖も切れるはず。
だから俺は……この刀を抜きに行き――闇魔法を全力で発動しながら資格を示し、刀を抜こうとした。
だけど……その瞬間地面から鎖が伸び始め、俺の体に突き刺さる。
ヤバいと思ったときにはもう遅く、痛みと倦怠感、そして毒に犯されたような熱にやられるも――彼女だけは逃がさないとと思った俺は、なんとか刀を抜ききって――彼女を繋いでいた鎖だけを意志を持って斬った。
「――奥の壁を触れ! そしたら外に出れる、から!」
声を張り上げそれだけを伝える。
そしてそれだけを伝えた俺は、そのまま暗闇に意識を落とした。心の中でシズクに約束破ってゴメンと謝りながら。
「そっか、私が待ってたのって貴方だったんだ」
【あとがき】
続きが気になったり、面白い! と思いましたらよかったらフォローと☆もしくはレビューをお願いします! あと次回からは一日1話更新に切り替え、毎日7時10分に投稿していく予定です! どうかこれからもお付き合いください。
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