第4話:迷宮攻略
俺が転生してしまった乙女ゲーである『徒カネ』には迷宮……またはダンジョンという物が存在している。そんなダンジョンには和国の呼び方的には
遺物の設定もかなりガチで作り込まれており、完全に男性向けみたいになってるが……まぁそこは置いておくとして、とにかくその遺物というのは失われた神代の技術で造られた物だ。
主人公である少女や俺のような攻略対象のみが装備できる物もゲーム内では存在し,今回俺がダンジョンに潜る理由もそれである。
作中で出てくる俺の専用装備は約四つなんだが、今回狙うのはその中でも最強と言っていいゲームクリア後のみに手には入れるエンドコンテンツの装備だ。
「……船出して貰ったけど、結構来るのに時間かかったな」
船から降りてやって来たのは海上の孤島。
ここに来るまでにも二日かかって道中も魔物に襲われて疲れたが、攻略する分には問題が無いだろう。だって正攻法で攻略する気は一切ないしな。
今狙ってるのは完全に不相応の装備であり……正直言えば扱える気などしない。
だが、この島を発見されてしまえば奪われる可能性があるので早く取っておきたかった。
「にしても遠いな」
孤島の森を進みながらもそう一人ぼやく。
この島の中心に存在するのは、ゲーム内の最難関ダンジョン。生息する敵の数も尋常じゃ無く正直言えば一人で来るのは自殺行為。
さらにカグラの専用装備が眠るこの場所は、四人いる攻略対象の中でも難しいとされており、造りとしては謎解きが無い代わりに純粋に敵が強くラスボスよりやべぇ存在が眠ってる感じだ。
「更に不気味なのが、迷宮につくまでは魔物が一切いないんだよな」
この島は魔物が生まれることがない。
理由は知らないが……シズクに聞いた話では、俺が踏み入れたこの島にある迷宮は昔は神域と呼ばれていた場所らしくそれが関係している可能性があるとは思える。
他の最難関ダンジョンは迷宮に着くまでの道中さえもキツく、迷宮は謎解き沢山という感じなのだが……カグラルートだけは異質と言っていい程に迷宮外に魔物が出てこない。
「確か名前は……禍津社の迷殿だったっけか?」
森を抜けて辿り着いたのは圧すら感じる和の社。
巨大な黒い鳥居が一つあり、その奥には何個もの鳥居が続いている。これをくぐった瞬間に俺を察知したモンスターが湧くのは覚えているので階段を上りながら息を整えて、俺は闇魔法で体を強化し暗月を造り出す。
――そして一気に駆けた。
「やっぱり湧くよな!」
鳥居を一気抜ければ、社の境内に数多くの魔物……いや、和風の場所だから妖怪と言えるような化物達が数多く現れた。
その中でも一際目立つのは甲冑を纏った黒い靄のような敵。
そいつは記憶の中に存在していた最初の難敵……ゲームと違ってターン制でないこの世界でコイツと戦うのは選んではいけない選択の一つだ。
ひりひりとしたものを肌に感じる。
……相手の発する殺気のような物が肌を刺し、絶対的な死を予感させてくる。
本来一人で挑むような場所ではないここで、ぱっと見で三十を超える相手と戦うなんて死にに行くようなもの。
「だから抜けさせて貰う」
俺が用があるのは社の中の迷宮だけ。
だから俺は密集する相手の間を小柄な体を活かして掻い潜り、強化した身体能力を使って先を目指した。
俺の意図に気付いたのか、狐面の和装束を着た札を持った敵が魔法を飛ばしてくるが――それをいつも以上の蝕で乗り切る。
蝕の正式な効果は、一定以上の威力魔法の無効化及び吸収。
使った魔力の量に応じて吸収量が変わるのだが、なんとかギリギリ吸収できる威力だったようだ。
で――そこまではよかった。吸収しきって前に進み、社に入る直前のことだ。
氷の魔法が俺ではなく、社の戸を狙いそれを凍らせてしまった。完全に飛び込むつもりでいたから思考が止まりすぐに愚痴が出てきてしまう。
「AIの時点でヤバかったけど、頭よすぎるだろこいつら!?」
入るのを邪魔され退路が塞がれる。
――判断は一瞬だ。ここをミスれば多分……俺は死ぬ。
止まれば終わりで、壊せば進めるがこの一瞬で別の魔法を使うのは不可能。
「ッなら――蝕で!」
魔法を吸収する為に伸ばしていた蝕を刀に纏わせ、戸を一気に両断。
そしてそのまま社の奥へと駆け込んで、俺は奥にあった祀られている鏡に触れた。
「入れた!」
その瞬間、暗転する視界。
次に俺が立っていたのは――螺旋状の坂と無限に鳥居が続く場所。
奥は視る事が出来なくて、何処までも闇が続くこの場所は空気が重く、呼吸するだけで動悸が激しくなる。記憶が確かならここを見つける際のゲームテキストでは瘴気というものが満ちているんだったか?
しかもそれだけではなく至る所から侵入した異物である俺へと殺意が向けられた。
――だけど止まってはいられない。普通の攻略手順であれば、この長い坂を下りていき、魔物を倒すかエンカウントを避けながら進んで行く感じなのだが。
前にも言ったが、ここは最難関ダンジョンであり――まともに攻略する事は不可能。だからこそ俺が選んだのは……。
「成功しろよ?」
今いる場所からの飛び降りだった。
横に進んで魔物を避け続ければ確かに安全に進めるだろう。
だけど戦いをスキップするのなら、この方法が一番だと俺は決め――最下層まで一気に向かう事を選んだのだ。
「――ッゥ苦しいな」
瘴気というのは人の体を犯すもの。
……しかもこの迷宮は下に行くほどにそれが濃くなっていく。
普通ならそれにゆっくりやられながらなのだが、この方法だとそれを一気に受けることになる。
目眩に吐き気――それどころか血を吐きながらも深層に落ちていく。
落ちていく感覚を味わいながらも地面が見えたところで俺は纏っていた蝕をクッションに深層に着地し――ようとした瞬間に、何かによる攻撃を受けた。
「――ぐッぅ、なんだ!?」
どんな攻撃下は理解出来なかったが、分かった事は地面に叩きつけられたこと。
――叩かれた瞬間に今まで以上の瘴気が襲いかかってきたし、何より今ので体が一気に重くなった。
ゲームで言うデバフだろうそれは、この国の呼び方で言う呪いだろう。
気持ち悪さを感じながらも立ち上がり、俺はなんとか前を向く――そしてそこで目にした光景は。
「……誰?」
櫻の下に佇み、階段の上から俺を無表情で見下ろす一人の少女であった。
白い髪に琥珀の瞳、何処までも白い陶器のような肌に淡い紫の着物を纏った同い歳くらいの少女。虚空から伸びる鎖に繋がれたそんな彼女はこのダンジョンのボスであり、作中での最強格であったカグラルートのラスボスよりも強かった存在。
本来なら仕掛けをとかなければ目覚めないはずのそれは、何故か目覚めており――虚ろの瞳で俺の姿を写していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます