第2話:ヨイヤミ家での従者生活
推しキャラであり、未来で俺を監禁する可能性を持つ『シズク・ヨイヤミ』の従者となって早いもので一週間、割と理不尽な世界にムカつきながらも俺は今日も与えられた仕事をこなしていた。
「掃除はもう終わったから……あとは料理の手伝いだけだな」
彼女が住んでいる屋敷にやってきて疎まれるかと思っていたが、なんだかんだ受け入れられており、前に買われた家の影響もあってか、今の俺でも出来るような家事を任されている。
「野菜を運ぶだけでいいから楽と言えば楽だけどさ、ちょっと皆気を遣いすぎだよな」
俺の体は頑丈だし、普通の子供の比べてかなり体力がある方だ。
働く以上は妥協するつもりないし、俺的にはもうちょっときつい仕事を任されてもいいと思っているんだが……どういう訳か、皆かなり優しくて今みたいな楽な仕事ばっかり……今も箱に入った野菜をキッチンに運ぶだけの仕事だしなんというか、あのお嬢様の従者にしては拍子抜けしてしまう感じだ。
「お、カグラ坊。そこに置いといてくれ!」
「了解、今日は何を作るんだ?」
「今日はそうだな……肉じゃが作って入ったばっかりの魚を捌く予定だな! もうすぐ出来るが味見するか?」
「シズクお嬢様のだろうし、先に食うのは気が引けるから大丈夫だ」
善意で言ってくれたのだろうが、それをむず痒く感じた俺はそう言って断って、他の仕事もないしで彼の料理風景を見ることにした。
手際よくシズクの料理を作る彼はこの屋敷ではかなり古参の人間のようで、屋敷で出会った中でもかなりの善人。金髪碧眼の筋骨隆々の彼は顔に刀傷があり、昔は戦場にいたとかなんとか。
「よし出来たぞ、シズク様に持って行ってくれ!」
「ん……あれ、なんで皿が二つあんだよ」
「お前の分だ。シズク様と一緒に食べてこい」
「流石に駄目だろ」
「気にすんなって、シズク様は気にしないぞ?」
俺が気にする……とは言えないので、素直に従うことにして御盆に乗せられたそれらの料理をシズクがいるだろう部屋に持って行った。
部屋に辿り着けば勝手に空く襖、ここ数日で慣れたその光景を見ながらも、俺は空いた部屋に入り机に食事を置いてどうせベッドの中にいるシズクの方を向いた。
「あら、もう食事の時間なのね。今日は何かしら?」
「肉じゃがと味噌汁……あとは、白身魚の名前分からないやつ?」
「そう分かったわ。貴方の分もあるみたいだし一緒に食べましょうね」
「断ったらどうする?」
「泣くわね、私が」
「……食べるか」
彼女がベッドから起き上がりながらも伸びをして、机の前に正座する。
俺もそれに習うように正座して座り、シズクと向き合いながら食事を始めた。
「さて、カグラ。ここでの生活はどうかしら?」
「……雑務ばっかりで退屈だな。皆変に優しいし、むず痒い」
「そう、それはよかったわ」
「何がだよ……」
正直言えば不満があるわけじゃないし、数年は触れてなかった優しさが慣れないだけなのだが……彼女と従者契約という儀式をする際、思った事は言えという条件をされたせいでこうやって包み隠さず話す必要があった。
「そう聞くあんたは最近何してたんだ? ここ数日なんかしてただろ」
「ふふ、そうね。貴方を買った貴族の家を潰したわね」
「…………えぇ」
「悪意があってやったわけじゃ無いわよ? あの家は貴方を使って色々やってたでしょう? 魔物の過剰討伐に裏格闘技場の経営、それを使った違法賭博。他にも沢山色々と……近々潰す予定だったのを速めただけだから、貴方が気にする必要ないわ」
そういやそんな事もやらされてたなと……過去の事を思い出しながらも、彼女の軽く行った所業にドン引きする。
……本当に今更思うが、俺を買ったあの貴族の家まじで違法行為ばっかりやってたんだな。潰れたのなら関わらないと思うが、この少女に目を付けられた点だけは同情しておこう。
クスクスと笑う彼女から感じるのは殆ど興味を無くしたような感情。
一応報告だけしたって形だけで、聞かれなければ言わない位には彼女にとってはどうでもいい話だったようだ。
買われた家には五年ぐらい居たが、その日々は本当に地獄だったのでもう思い出すことではないだろう。
「……了解、流石はお嬢様」
「変なおだてはいらないわ、それより貴方が行きたいって言ってた迷宮を見つけたけど、今度行くのかしら?」
「え、まじか!?」
「へぇ、そんなに喜ぶの?」
「いや……一応鈍ったら嫌だし。俺は元々戦闘用の従者だろ?」
最初であった日の言葉が確かなら彼女の興味は俺の強さにある筈だ。
この先の未来に待つ彼女の生涯が多いのは知ってるし、一応俺は彼女のハッピーエンドも目指している。だからいくら強くなっても良いはずなのだ。
何より障害を排除する為に俺自身はいくら強くなっても良いはず――強くなるためにこそ、俺は彼女に頼んである迷宮を探して貰っていた。
「行きたいなら構わないけど、その前に貴方の実力を試したいわね」
「やる必要はあるのか?」
「えぇ、強いと聞いてはいるけれど実際には目にしてないでしょう?」
「まぁ、それはそうだな。でもどうするんだ? どう試すんだよ」
「――そんなの私が相手になるわ、不足はない筈よ」
それだけ告げた彼女は、やはり笑みを浮かべており……何処までも自信満々な態度でいた。そんな彼女の実力を知っている俺からすると、不足はないと思えるのだが……。
「怪我するぞ?」
「……望む所よ、それに一度確かめないといけないとは思っていたの。だから戦いましょう?」
貴族……それもこの和国の姫である彼女は勿論だが固有魔法を持っている。
それも王族由来の最高峰と言っていい程の魔法を――実際、この世界の主人公に立ちはだかるボスでもあった彼女は強い。
――正直守る予定の相手と戦うのは気が引けるが……それでも一度は自分の実力を試す必要があったのは確かだろう。
「よし分かった。場所は庭で良いよな?」
「えぇ……行きましょうか」
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