RPG系の乙女ゲー世界に転生した俺は、監禁ルートを逃れたい~和洋折中華各ルートの悪役令嬢達が全員こっち見てるんですけど、今から逃げる方法はありますか?~

鬼怒藍落

第一章:宵闇に咲く彼岸の花

プロローグ


 ……深夜、武家屋敷の一室にて。

 天蓋付きのベットの上、壁際に追いやられながらも俺の心臓は恐怖等の感情で脈打っていた。ハイライトの消えた蒼い瞳、この暗闇の中ですらも目を奪われるような漆黒の髪。同じく黒い振り袖を着る彼女は、俺へと言葉を紡いでく。

 

「ねぇ……カグラ、私達ずぅっと一緒よね?」

「……えっと、お嬢様? 逃げるのはありで?」

「嫌よ、決して逃がさないわ――だって逃がしたら他の子を貴方は見るでしょう?」

 

 蒼い瞳が俺を射貫くように、俺の胸に手を置きながらも語りかけてくるシズク・ヨイヤミという少女。俺の主でもある彼女に対してかける言葉を間違えれば確実に詰むであろう。


「ねぇ、カグラ? 答えてくれないかしら、貴方は誰のもの?」

「お嬢様のものですよ」


 下手な事は言えないし、彼女の性格を知っている俺からするとまじでこれ以外の答えはなかったのでそう言ったのだが……にっこりと笑う彼女を見てすぐに後悔した。

 あぁ、本当にどうしてこうなったのだろうか? 

 


 徒花あだばなのリィンカーネーション。通称『あだカネ』というRPG系の乙女ゲームがあった。そのゲームは、固有の魔法を持つことで平民ながらも貴族やその従者が通う学校に入学した少女を中心に展開されるゲームである。


 その作品は主人公の少女が和洋折中がモチーフの四人の攻略対象と関わりながらも、魔物を倒してレベルを上げて最後にはラスボスを倒すという簡単な内容のもの。

 ……だが人気男性向けゲームメーカーが初めて挑戦した乙女ゲーという事もあってか、かなり売れ――内容は女性向けではなかったものの、数多くのやりこみ要素が評価され人気ゲームとなった。


 少しヤンデレ気味だけど可愛い主人公。

 男ですらも少しドキリとするようなイケメン攻略対象……そしてこのゲームが最も売れた理由とも言える各ルートで現れる攻略対象に合わせた悪役令嬢達。

 『徒カネ』は確かに乙女ゲーとしては失敗だっただろう。だけど、男性プレイヤーを取り込み一大ジャンルとなったのだ。


「あーやっぱ可愛いなシズクは……まぁ少し怖いけど」

 

 そんなこんなで人気ゲームとなった『徒カネ』。

 俺もお前好きそうだろと友人に教えられた和風ヒーローのルートに登場する悪役令嬢が物凄く気になって購入したのだが……見事にどっぷりとハマってしまい、本来ならバッドエンドであろうスチルをひたすらに集める作業に没頭していた。

 前々から進めていたのだが、家族が今いないので今日こそ終わらせようと思ってもう二日はぶっ通しでやっている。

 

「あと少しで回収終わるんだけどさ、バッドエンドの数マジで異常だろ」


 俺が把握し回収した段階でその数は十五、攻略サイトは見てないが……イベントシーンの確認画面を見る限り少なくてもあと三つは残ってる筈だろう。

 ここに来るまで本当に長かった。


 攻略対象のカグラ君が監禁されたり、主人公を無視して共依存したり……凍結させられ監禁されたり、悪役令嬢に殺されたり、挙げ句の果てには鎖につながれ監禁されたり。あれ、今思うと攻略対象の一人だけ監禁ルート多くね?


 いや、それは置いておいて今まではコツコツと進めていたが、数時間プレイしたせいかハイになっており……今はもう全バッドエンドを回収するまで終われないRTAをやっている気分だ。


 ここまで来たら終われないし、何が何でもシズクルートを……というか俺がメインで進めている『カグラ・ヨザキ』ルートのバッドエンドを見終わるんだという思いで俺はゲームをやっていた。


「あと三つ、あと三つ回収したら終わるんだ」


 バッドエンドを全回収するために休日を捧げるというのは本当に色々狂ってると思うが、それほどまでに悪役令嬢である『シズク・ヨイヤミ』を俺は推していた。

 主人公以上のヤンデレで、自分の従者であるカグラに執着し、絶対に彼を離さない逃がさないと頑張っていたのに彼の傷を埋めたとかなんとかで主人公に取られてしまった悲劇の悪役和風令嬢。


「……本当にカグラ君酷いよな、俺だったら絶対にシズクを選ぶのに。いや、まぁ……境遇自体は分かるから責めないけどさ」


 そんな事を呟いて、俺は少し伸びをした。

 全部回収するつもりでいるが、流石にここまでぶっ通しでやり続けるのは疲れたからだ。凝り固まった体をほぐすようにして、ついでに飲み物が欲しかった俺は立ち上がり台所を目指すことにしたのだけど――その瞬間。


「あれ……なんか地面が近――」


 それが最後の記憶。

 俺の意識が完全に途切れる前の最後の光景だった。

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