第24話 桃未さん、変心する?
「こら、悠真!」
地域祭りから数日が経った。
あの場で花梨さんたちに遭遇した出来事は偶然に過ぎず、桃未と二人きりになって以降は特に何も無かった。
しかし、数日が経ったこの日。
学校帰りのいつもの下校の最中、桃未の俺に対する視線と態度は明らかにおかしな変化が生じていた。
「え、何?」
「ううっ……ぐすっ」
「な、何で急に泣くの!?」
俺を呼び捨てしたかと思えば、急に泣き出してしまった。情緒不安定にでもなっているのか?
「あ、あのさ、そんな滝のような涙を流されても困るよ。せめて理由を話してよ」
「桃未さんは嬉しいよ! 悠真がちゃんと成長してくれてたことを! あの日の夜のことを思い出すと泣きたくなっちゃうんだよぉ」
……何だ、何事かと思いきや祭りの時の思い出し泣きか。しかし何を成長させたんだろうな、俺は。
しかし桃未が嬉し泣きしてるってことは、俺が何かしたからだよな?
「熱々のたこ焼きからのわたあめ……とかじゃないよな?」
「そう、あたしの愛するたこ焼きをあ~んして悠真が指ごと――じゃなくて!! よくぞ理性を守ってくれたよね~! あの日がきっと、ハッピーエンディングルートだったのだ~」
「……よく分からないけど、桃未にとっても俺にとっても良かったってこと?」
どうやら正解らしく、桃未は頭を激しく上下させている。
「というわけで、あたしはそろそろ本気出す。ううん、出すことに決めたのだ~!」
「……本気?」
どうせまたくだらないことなんだろうな……などと気楽に構えていたが。
「悠真はあたしのこと、好きだね?」
不意打ちにも程があるし、何でこんな突発的なことを?
「え……えっと、でも」
「イエスか? イエスだな!?」
「イエスイエス!」
桃未の本気出すは、つまり彼氏のフリをやめて正式に俺を彼氏として認めるという意味なんだろうか。
「よぉし、このままデートに行くぜ~!」
「へ?」
「むふふ……桃未さんから直にお誘いを受けるなんて、悠真ってば幸せ者かよ!」
「うん……まぁ、嬉しいかな」
急にデートと言われてもどこに行くんだよと思っていたが、有無を言わさず映画館に突入してた。
「ゴヅラ3.1415、するめの戸締り確認、みっしょん桃未ネーター……迷うねえ」
何だか色々やばいタイトルだな。とはいえ、色んな新旧タイトルがあってどれを観るべきか迷う。
「で、まさかと思うけど、ポップコーンを勝手に食べるとお仕置き?」
「ふふふふ。当たりだよん!」
「あたしが戻ってくるまで死守せよ! なれば、道は開かれん」
「――何の道が開くんだよ」
「じゃあ、行ってくるよん」
桃未は何だかんだで世話好きかつ優しい女性。俺が落ち着かない様子を見せていたせいか、映画館のリア充を爆発させてくると言って席を外した。
桃未曰く、今のうちに世のカップルを見て羨ましがりたいらしい。俺と本格的に付き合うことになれば今度は自分がそうなるからと言っていた。
相変わらず不思議さ全開だがこうなってしまった以上、何を言っても許してしまえるくらい桃未が急に愛おしくなる。
俺の心は若干浮足立っているが、早く隣の席に戻って来てくれとさえ思っている。
だが、
「泣きそう? それとも泣く? 膝の上、貸してあげるけど?」
「うあっ!?」
「嬉しい? 元カノと偶然に出会えて」
おいおい、こんな偶然なんてあるのかよ。ここで元カノの星里香が現れるとか、あり得ないぞ。
俺とは金輪際関わらないでくれと言ったはずだが、何でなんだ?
「悠真~! 待たせちまったぜ! って……げげっ!?」
あぁ……まぁ、予想通りの反応だよな。遭遇してはならない相手すぎる。
「こんにちは、桃未さん。ここに座る悠真、泣いてましたけど?」
こらこら、何を言い出してんだ?
「……よ、よく分かってるね。そう、あたしのカレくんてば、泣き虫なんだ~。でも気にしないでいいよ? あたしが戻って来たことですぐに泣き止むから」
一瞬だけ戸惑ってみせたようだが、桃未の方が優勢か?
「いいえ、セリもこれからここにいる悠真と見るので」
「どうぞ勝手に!」
「当然、です」
そう言うと星里香と桃未に挟まれながら、両腕を二人によって拘束されてしまった。
何やら壮絶なやり取りが始まる気配を感じてしまうが、意外にも映画鑑賞中は何も起きなかった。
鑑賞を終えて外に向かおうとしたところで、言葉の応酬が始まろうとしていた。
「案外強い? でも、悠真は乗り換えたいって思ってる、違う?」
「えっ、何が?」
「おおっと、悠真は渡さん!! 元カノなんだからもう他のイケメンに行けばいいさ! あたしと悠真はこれから旅へと行くのだよ。邪魔をしないでもらおうか!」
映画を見て単なるデートかと思いきや、旅!?
彼氏としてこれからって時になって、まさかの元カノとは。でも、もう俺の方も本気出すしかないってことだろうな。
「…………悠真には何でもやらせてあげる」
「ゆるさ~ん!! あたしは許さんぞ~!」
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