第7話 レイニーブルー?な桃未さん

 梅雨とかに関係無く雨ばかりが続くと、彼女がいない男子は夢を見たりする。その夢はもちろん、傘を手にする女子のお迎えの図。


 しかし俺は彼女じゃない奴……自称彼女? が傘を持って迎えに来てくれるというイベントがあり、他の男子とは真逆な高揚感を抱く。


「いやぁ~結構結構! あたしが来るのを待ってくれて嬉しいなぁ」

「雨降りイベントだからな」

「どきっ!? ま、まさか悠真くんに限って水に濡れて透ける……ムネの辺りを期待してるのかにゃ? しかぁし! 残念ながらインナーを着てるので透けないんです、あぁ残念!」


 何も言って無いのに……。桃未の妄想力がレベルアップしてるな。

 

「でも髪が濡れてるのは何で? 傘をさして来たんじゃないの?」

「シャンプーをしてすぐに外に出て来たのだぁ! 乾燥してないからこそ実感する、見よ! ここにいる可愛い彼女の髪は常に潤いに長けているぞよ!!」

「それってただの面倒くさがり――」

「何だとぉ~! おのれ、悠真くんめ!」


 俺に怒りの矛先を向けるのは図星だからだろうな。


 たとえ雨が降らなくても桃未の髪はいつも何となく濡れ気味だったりする。降るか降らないかの駆け引きというより、要は面倒くさがりってことだろ。


 それなのに桃未は何かのハッピーシチュエーションなる妄想をどこからか抱き、俺の下校に合わせて無駄に瞳を輝かせている。


 これがいわゆる無駄天然女子というやつか。


 そして翌日。


 この日は昨日よりも大雨になり、俺は傘を持たずに学校の玄関で待っている。


「やっほぉい!」


 どこからともなく若干イラッとしそうな声が聞こえてきた。


 自分の目の前を数組の男女がいちゃつきながら帰っていくのを何度か眺めていたが、それ自体特にムカつきは無かった。


 しかし真正面から聞こえてくる緊張感の無い声には、何となくの嫌悪感。


 それが誰なのかはもちろんシルエットで分かるものの、何となくの抵抗で素通りしようとすると。


「へい! そこの彼氏くん、雨に濡れていいオトコを演出ですかぁ?」

「いや、別に」

「雨ですよ? それも大雨ですよ?」 

「雨だな」

「どうか彼氏みたいなコトに巻き込まれてよぉ」


 分かってることだとはいえ、連日のように俺の学校に来る桃未は暇なのか?


「彼氏? そんなもん、その辺を歩いてる男とか、駅前辺りをうろうろしてる数々の男に声をかければいい話……」

「ノンノンノノン!! 悠真くんがいい! 駄目……かなぁ?」


 玄関先にはずぶ濡れ覚悟なのか、折り畳み傘を持たない猛者どもが期待の眼差しで俺の返事に固唾を呑んでいる。


 その中にはストーカーと化している越後もいるし、桃未を知らない下級生の姿もあった。


 こいつらの視線は桃未のみ。つまり、昨日見かけた桃未に目を付けて慌てて玄関に待機していたに違いない。


「しょ、しょうがない桃未さんだな。いいよ、付き合うよ」

「つ、付き合うですと!? そ、それはつまりお認めになられるのですね!?」

「そういう意味じゃねえ!」

「うんうん! モチのロン! じゃ、行こうか」


 ということで、どしゃ降りの中で桃未の隣をゲットしたのは俺である。


「何なら桃未さんの家の中まで付き合いますよ?」


 俺の言葉に桃未は。


「だが断るわ! あたしのお部屋に入るなんてまだ早~い!」

「本気にするなっての。間違っても桃未の部屋にお邪魔するつもりは無いから安心していいよ」

「そ、そんな……そんな言わなくてもいいのにぃ」

「じゃあお邪魔しても?」

「へ、部屋がとてもとてもごちゃごちゃしてるの。だから無理なの!」


 美少女な桃未の部屋が実は汚部屋という可能性があるわけか。もしくは本命がすでに住んでて、俺を入れると問題が起きるという……それは考えたくないけど。


「……俺の家までよろしく」

「ラジャー! ありがと、悠真くん!」


 上目遣いで俺にお願いする桃未は家に着くまでの間、俺の方に傘を傾け、自分を思いきり濡らしながら歩いてくれた。


 この気遣いだけで判断すれば年上の姉っぽいんだけどな。


「はぁぁ、雨は嫌だよね~憂鬱すぎぃ」


 そうかと思えば雨が嫌だと発言するのか。


「でも俺との強制イベントが発生するんだよな。それはどう――」

「――言うでない! あたしが個人的に雨降りが嫌だってだけなの。悠真くんとこうして歩くのはちっとも嫌じゃないの! お分かり?」


 何だか強引にまとめられたような。


「はいはい」

「よろしい! 悠真くんは聞き分けのいい彼氏くんだよっ」

「彼氏らしいことを何もしてないけど」

「あたしが良ければいいのだ!」


 雨降りで憂鬱ゆううつになっていたはずの桃未は、やっぱりいつもの明るさだった。

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