第3話 生配信中の桃さんを探そう!

 休日。


 高3な俺には休日だからと買い物に行く余裕はない。人混み自体も好きじゃないし、受験との兼ね合いもあるし。


 しかし俺は桃未が通っている大学に入ることがほぼ決まっていて、総合型選抜試験で面接対策と小論文さえ何とかすれば入れるので、他の奴より気持ち的に気楽だったりする。


 だからといってあまり目立つ行動をするのは控えなければいけない。そんなことは分かっているのに、桃未からすればもう受かったようなものと解釈しているようで。


 そのせいか休日になると、桃未は俺を使ってゲームをするようになった。


 そのゲームとは――。


『あたしは今からお外に出かけまーす! 残念ながら生着替えはたった今終了しちゃいましたぁ~! 次回、こうご期待!』


 ……などと、視聴者を俺限定にしたかったけど、実際は仲のいい人限定の非公開設定かつ、桃未が直接アクセス権を教えた人だけ――というプレミアム桃未チャンネルという生配信を始めてしまった。


 そんな桃未チャンネルを見ているのは見事に俺と桃未の友だちだけ。その中でも男は俺だけだったことで桃未の友だち……といっても年上オンリーに興味を持たれ、今では一緒に桃未のゲームに付き合うという仲間になっていた。


 ということで、空が丘公園通りに来た。


 俺や桃未の活動範囲になっている繁華街というと空が丘か、駅前モールのレゾーナくらいしかない。


 色々揃っているのは空が丘側になる。そこの公園通りの自販機前に近づくと、桃未ゲーム常連の人が俺に気づく。


「や! 早いね、ゆうゆうくん。それとも桃の彼くんだっけ?」


 俺の名前が結城ゆうき悠真ゆうまだからゆうゆうと呼ばれている。

 何で?


「ども。ちなみに彼氏じゃないですよ? 梨花りんかさん」

「はい、いつものセリフ頂き! 素直に認めちゃえばもっと可愛いのに~」


 梨花さんは桃未と同級生で、俺と桃未の関係も知っている。そのうえしょっちゅうからかってくる先輩だ。


 梨花さんは外面がめちゃめちゃいいくせに、俺のことをいい様にもてあそんで楽しむ趣味がある。


 桃未はふわふわしてるのに、友達は桃未とは違う世界の人っていうくらい派手めな人ばかり。梨花さんは見た目はダークっぽいが。


 桃未曰く知り合いはみんなフリーらしい。だからなんだよって話だけど。


「今日は梨花さんだけですか? 美柑みかんさんとか、新葉わかばさんは?」

「桃未に付き合うほど暇じゃないって。私は桃未と腐れ縁だから付き合うけどね」


 桃未は幼馴染である俺以外の男を知らない――もちろん、話が出来る相手という意味で。


 そのせいか桃未は女子から見たら危なっかしくて見てられないタイプらしく、自然と保護者目線な友人が増えたとか。


「……で、今日はどの辺を徘徊してるんですか? あいつ」

「見えた背景は多分……ま、ゆうゆうくんだけだと入って行けない所だと思うし、一緒に行こうか」

「は、はぁ?」


 さすが桃未の友人なだけあって答えをはっきり言ってくれない。


 桃未チャンネルメンバーとの待ち合わせ場所は、大体空が丘公園通りの自販機前。繁華街の中で分かりやすい待ち合わせ場所は他にもあるものの、マニアック自販機があるのは公園通りだけなのでかなり分かりやすい。


『桃未さんだぞ~! 今は何とっ! レプリカキッチン前に移動したんだな、これが~! 桃未さん、お腹空いちゃうとす~ぐ移動しちゃうんだな~。早く見つけたまえ!』


 ……ったく、何て厄介な。


 最初は生配信じゃなく、日常ドキュメンタリーなるものを撮ろうとしていた。しかしそれだと反応が面白くないとかで生配信オンリーになった。


 俺もそんな暇じゃないのに、何で付き合わされるのかよく分からない遊びだ。


「あの子、人混みの中で撮影するの得意じゃないからね。それこそ男性が多いところとかね。だからなるべくゆうゆうくんが見つけるべきだと思うな~」

「桃未さんは俺以外に男を知らないですからね。それは仕方ないですよ」

「……大した自信だね、彼くんは」


 何だ?

 梨花さんの俺を見る目が怪しいぞ。


「なんすか?」

「桃未を知るのは俺だけだ! なんて、凄いこと言うな~と思って」


 理不尽だ。

 そんな意味で言ったんじゃないのに。


 しかし桃未の友だちに逆らってもいいことは無い。こういう時は無言で頷くに限る。


 そんなやり取りをしながら桃未が元々いたであろう場所に目星をつけた梨花さん主導のもと、俺だけそのお店に潜入することに。


「いらっしゃいま……せ」


 入店した俺を出迎えたギャル店員が、すぐさま俺を不審な目で見てくる。梨花さんには行けば分かる。なんて言いながら背中を押されただけだが、どういう店なんだ?


 梨花さんもそうだけど、他の彼女たちも最後まで一緒に来てくれないのはどうしてなんだろうか。


 それにしてもこの雰囲気、店内に飾られている割と派手めな下着たち。


 どう見てもここは――。


「愛しの悠真よ! よくぞ参られた! さぁ、願いを言いたまえ」


 嫌な予感がしたのもつかの間。桃未は堂々と下着姿で俺の前に姿を現した。


「……桃未さん。ここはもしかしなくてもランジェリー……」

「おぉ! どうして分かったの?」

「そりゃぁ……そんな恥ずかしい格好をしてれば嫌でも分かる」

「嫌だなんて酷い……しくしく」


 泣いて無いからいちいち反応しないが、店員からの視線は確実にダメージが通る。


「桃未さんの生着替え……みたいなものをどうもありがとう」

「さすが悠真くん! 持つべきものは彼氏~だよねっ」

「違うけど、ここではそういうことでいい」


 途中まで来てくれたのに、何で梨花さんは最後までついて来てくれないのか。

 

「今日はお楽しみ頂けたかにゃ?」

「スリル感が半端無くてまぁまぁかな……」

「ほほぅ! そういやさ、梨花は一緒じゃなかったの?」

「途中までいた」


 俺の言葉を聞いて桃未はふっふっふ。と一人で笑っているようだ。

 それより、下着姿で店内を歩いてるのもどうなんだ。


「嬉しそうなのは分かったから、そろそろ服を着てくれ。俺が困るから」

「桃さんの下着姿は僕のものだ! だね? 分かったぜ!」

「違います」


 しかし俺の返事など聞かずに、桃未は上機嫌でフィッティングルームに入って行った。


 ここに残された俺のことなどお構いなしに。


『桃未さんだぞ! さぁ、本日はこれにてお開きさっ! 今から彼氏くんとご飯~ご飯~! ではまた~!』

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