「大きくなったらね」と余裕たっぷりだった近所のお姉ちゃんがアラサー(処●)になった今、涙目で俺に婚姻届けの判を押させようとしてくるんだが
せせら木
プロローグ
「瑠衣お姉ちゃん、ぼくと結婚して!」
かつて七歳だった俺――
「りん君が大きくなったらね」
と、毎度毎度頭を撫でてくれながら。
当時の俺はそれを確かなものだと信じていたし、取り付けられた約束だと思っていた。
何なら、ゲームでいう『ポイント』を貯めていってるような感覚でいたわけだ。
ずっと言い続けていれば、早いうちに瑠衣姉と結婚できるかも、と。結婚できない未来を一ミリも想像せず。
だから、「大きくなったらね」という言葉の本当の意味に気付いた小学校高学年の時は、結構落ち込んだ。
瑠衣姉は、幼い俺の告白を本気にしておらず、男としても見てくれていなかった。
その事実に胸が苦しくなったし、何よりも恥ずかしくて、情けなくて。
瑠衣姉が大学生になり、帰省してきた時だって、俺はなるべく普通を装って接していたけど、それはどこかぎこちなかったかもしれない。
でも、まあいい。
特に何も言われることは無かったし、された心配と言っても、「何か考え事とか悩み事とかあるの? 話聞くよ?」くらいしか言われなかった。
いっそのこと、「瑠衣姉が俺のことを男として見てくれないのが辛い」なんて打ち明けてしまおうかとも思ったけど、それはさすがに無理だ。反応を知るのが怖い。苦笑いで「ごめんね」なんて言われた日には、本気で死ねる自信がある。究極の失恋と言っていいだろう。耐えられない。精神が。
そういうわけで、俺は自分の想いに蓋をした。
報われない恋をいつまでも抱え続けるのは、いずれそれが毒となって体を蝕んでいく。良くない。
それが故の決断だ。
瑠衣姉のことは諦めた。
瑠衣姉を好きだったのは、過去。
今じゃない。
そして、その諦めるしかない想いによる傷も、時間が確かに癒してくれた。
俺はもう大丈夫。
何があっても大丈夫。
そう思っていた矢先のことだ。
神様っていうのは、どうも人へイタズラを仕掛けてくるものらしい。
高校二年に進級した春。
俺たちのクラス担任として教壇に立つのは――
「青山瑠衣と言います。この一年間、皆のクラス担任を任されました。よろしくお願いします」
信じがたいことに、あの瑠衣姉だった。
初恋の、近所に住んでいたお姉ちゃんの。
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