【KAC20246】お前が言うな

三寒四温

第1話

 私は、バードサンクチュアリという一種の動物園に勤めてます。鳥専門の動物園。本来の言葉の意味では鳥の保護区ですけど、私が勤めてるのはそういう名前の娯楽施設。


 鳥とひと括りに言っても、生態は千差万別。とても頭のいい子もいれば、おバカな子もいます。おバカの代表格は、やっぱりダチョウさん達でしょうか。鶏は三歩歩くと忘れると言われますが、その言葉を地で往く子達。


 いきなりバーっと走り出すけど、何で走り出したのかわからなくなるし、そのままの勢いで群れの中に突っ込むと、それで仲間がみんなびっくりして一斉に走り出すし。一応家族は作る生態なんだけど、そんな騒ぎで家族が入れ替わってもずっと気が付かないし。


 基本的に人には慣れない子達ですけど、先輩が言うには、うまくやれば乗れないこともないそうです。最初はじたばたするけど、そのうち何で自分がじたばたしてたのかも、今自分の背中に人が乗ってることも忘れちゃうみたい……


 彼らはなーんにも気にしないで生きてるんだなって気がします。ほら、あそこにいる子、お尻にうんこついたままだし。あれはあれで幸せなのかもな、と思ったり。




 おバカな子もいれば、頭のいい子もいます。今日、紹介するのはキバタンのギスケくん。構ってちゃんでいたずら好きで偉そうという、属性てんこ盛りな子。比較的新入りな私は、大先輩のギスケくんによくからかわれています。昨日もこんな感じでした。


 私はギスケくんをケージに戻すため、彼を探していました。でもなかなか見つからない。


「ギスケく~ん」


 呼んでも返事がありません。暫く呼びかけながら探し回ってると、ごく短くギスケくんの声がしました。私はそっちを振り返ります。でもいません。それで正面を向いて二、三歩歩くと、またギスケくんの短い鳴き声が。でもやっぱりいない。


「出てきて~」『やだよ』


 ……だんだんイライラしてきました。


「こらギスケ。さっさと出てきなさい」『ギスケくんと呼びなさい』


 むかーーーーっ!


「誰に口をきいてる!」『誰に口をきいてる?』


 なんか疲れてきました。


『しょうがないな。とりあえず飯にしようぜ』


「そうですね……」


 と言いかけて気づきました。同僚の声色を真似してるけど、今それを言ったの。


 ギスケ! お前だろ!


 私の苦難はまだ暫く続きそうです。

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