口論 side:ウィル11 & セレス2

テーブルを挟んで俺の目の前に座る国王様。

やっぱり何度見ても、慣れない。


「え、えーっと、とりあえず、何があったか聞かせてもらってもいいですか?」


俺は今にも泣きそうな国王様に対してそう聞いてみる。

言葉使いが荒くてオルトス父さんに小突かれたが、国王様が「よい」とそれを静止した。

流石、国王様。オルトス父さんを一言でコントロールするとは、見習いたいものだ。


「あまり長々と話をしている時間はない。端的に話すが許せ」


そう言うと国王様は昨晩あったことを話し始めた。



◆◇◆◇



国王視点。


オルトスの息子との見合いを終え、帰ってきたセレスは帰るとすぐに私の部屋を訪ねてきた。


「お父様、私から少しお話があります」


私の部屋に入るや、真剣な顔つきでそう告げるセレス。

今日あったことの報告だと思ったが、どうやら違うらしい。


「話?どうした、ただいまの一言もなしに」


「申し訳ございません。ですが、この決心が鈍らないうちにと」


「?」


決心?


「お父様に私への特別扱いをやめて頂きたいのです…………」


「っ!」


いつになく、小さな声でそう願いを口にしたセレス。

その願いに私が驚かされたのは言うまでもないだろう。


特別扱い。確かに私はセレスが治癒魔法を使えるという理由で

セレスを特別扱いしていたし、セレスもそれを感じてはいただろう。

だが、ここまで真正面を切ってそれをはっきり口にしたことはなかった。

しかも、それをやめて欲しいなどと。


「まず聞こう。何故だ?」


私は簡単に否定はせず、セレスの意見を聞くことにする。

すると、セレスはまだ言いづらそうに俯きながらゆっくりと口を開く。


「…………今日、ウィル様の魔法を見ました」


オルトスの息子の魔法を?


ウィルミス・フォン・シュタイン。

私の忠臣、オルトスの息子で今、私の頭を最も悩ませる人物。

魔法の才に優れ、将来、この国の名を背負う魔法師になることももはや疑う余地もない。

だが、その才と性格が故に一抹の不安は残る…………。


「その魔法を見た時、どこか冷めていた私の心がすごく暖かくなったんです。

そして、同時に一度は諦めた夢をもう一度追いかけてみたくなりました」


「一度は諦めた夢?」


セレスに夢があったのか?

そんな話は聞いたことがない。


「はい、この世界に存在する全ての魔法をこの目で見るという夢です」


「っ!」


私は初めてセレスの夢を知り、三度驚かされる。

この世界に存在する全ての魔法を自分の目で見ること。

今までなるべく外に出さないようにしていた娘にそんな壮大な夢があるなど気づきもしなかった。


「…………今までずっとこの夢は胸の内に隠しておりました。

お父様が私を思ってなるべく私を外に出さないようにしていたのは理解していましたし、

何より、この国の王女としてそのような夢を持つことは許されないことだからです」


セレスは見た目こそまだ子供だが、中身はもう立派な大人だ。

ちゃんと現状を理解している。

だが、それでも尚、今日、この夢を語ったのは———。


「でも、今日、ウィル様の魔法を見てその夢が我慢できなくなったんです。

勿論、無謀な夢とは理解している。でも、何もしないまま諦めたくはない。

外に出て、学園にいき、世界を周り、

いつかは今日見た魔法より素晴らしい魔法を、とそう思ってしまってしまったんです」


オルトスの息子、か。


「だから、お願いです、お父様。私への特別扱いはもうお辞め頂けないでしょうか」


そう言って頭を下げるセレス。

セレスから願いを口にされること自体、これが初めてだった。


…………罪悪感を感じる。 

もし、この子が治癒属性を備えていなければ、私の娘でなければ、

このようなことで悩むことも、苦しむこともなかっただろう。

だが、それでもやはり、この子は私の娘であり、この国の宝であることに変わりはない。


今はまだなんとか隠せているが、いずれはセレスが治癒属性を持っているということが世間に

バレる日がくるかもしれない。もし、娘が夢を叶えるために動くのであれば、尚更だ。

そうすれば、きっとセレスは多方面からその身を狙われることになる。

その時、やはり護衛がいないと魔法も碌に教えてないこの子では太刀打ちできないだろう。


なら、やはり…………、


「ダメだ。私はお前への扱いを変える気はない」


私は言葉を濁すことなく、はっきりとセレスに向かってそう告げる。


「そ、そんな…………」


絶望に変わるセレスの表情。

その表情を見ると決心が鈍りそうになった私は目を逸らす。


「…………り、理由をお聞きしてもよろしいですか」


セレスは唇を噛み締めながら私にそう質問してくる。


「それはお前も分かっているだろう。お前が王女で治癒属性を所持しているからだ」


「やはり私を思ってのこと、ということですね」


「…………そういうことだ」


私は卑怯な男だ。

本当はセレスの為じゃなく、私の為だと分かっているのに。

こう言えばセレスが止まると思って嘘をついた。

でも、これでいい。結局はこれがセレスの為にもなると私は信じている。


「なら私は、お父様と親子の縁を切ります」


「…………は?」


私は娘の言葉に自らの耳を疑う。


「い、今、なんと?」


「お父様が私への特別扱いを辞めなければ、私はお父様との縁を切ると言いました。

そして、王女ではない、普通の人間として自由に生きていきます」


「っ!?」


な、な、なんだと…………。

私との縁を切る?


「そ、そんなこと私が許すはずないだろ!」


「お父様が許す、許さないは関係ありません。私が勝手に家を出ていくだけです。

それが嫌なら私への特別扱いをやめる以外にない。私は本気です」


ま、まさか。まさかだ。

あの心優しいセレスがこんな手を打ってくるとは。


「ど、どうしてだ、どうしてそこまで…………」


「それほどまでにウィル様の魔法が綺麗だったからです」


「っ!」


正直、娘とオルトスの息子を婚約させるのは賭けだった。

オルトスの息子にこの国の力になってもらい、そして、娘を守ってくれれば最高の形と思っていた。

だが、どうやらそれが最悪の形になってしまったらしい。


「お前は勘違いをしてるだけだ!綺麗だと思い込んだだけに過ぎない!!」


「そんなことありません!ウィル様に見せて貰った魔法は紛れもない本物でした!!」


私は初めてセレスの前で声を荒げる。

すると、それに対抗するようにセレスも大声で反抗してきた。


「それはお前が魔法というものを知らないだけだ!」


「だからそれを知る為に色々な魔法を見てみたいと言っているんです!!」


「クッ…………、」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


口論が白熱すればするほど、セレスの本気が伝わってくる。

だが、私もここで折れるわけにはいかない。


どうすれば、どうすれば、セレスは止まってくれる。

セレスはオルトスの息子の魔法に心を奪われている。

それがセレスの中にある限り、絶対にセレスが折れることはない。


「っ!」


その時、私の頭に一つの考えが過ぎる。


…………分かってる、これは決して言ってはいけないことだ。

セレスの親として、何よりこの国の王として言ってはならない。


しかし、


「魔法を掛けられているんじゃないのか?」


「えっ…………、」


私のその言葉で言い合いになっていた口論から一転して、部屋は静かな空気感に包まれる。


「…………正直、私もオルトスの息子のことはまだ掴みきれていない。

だから、もしかしたら、お前に洗脳かなんかの魔法を掛けてそう思わせただけなんじゃないのか?」


卑劣な手を使っていることは承知している。

しかし、このままでは本当にセレスは私の元から去ってしまう。

そう思った時、私の口から自然とそんな言葉が漏れ出ていた。


「お、お父様、それは本気でおっしゃってるのですか?」


「無論、本気だ」


これでセレスの中に疑問が湧いてくれれば、あるいは…………、


「……………………………。」


その瞬間、私は言葉を失うと同時に固まった。

久しぶりに娘の涙を見たからだ。


その透き通るような涙を見て、私はようやく自分が何を言ったかを理解する。


「失望しました、お父様」


それだけ言い残してセレスは私の部屋を出ていく。

しかし、私にそれを止めることなど出来るはずもなかった。



◆◇◆◇



「…………これが昨日あった出来事だ」


そうして、国王様は昨日あった出来事を喋り終えると、俺に対して再度、頭を下げる。


「本当にすまなかった。余は其方に対し、酷い事を言ってしまった。

例え、どれだけ魔法の才があろうと、其方がこの国の民であることに変わりはないというのに」


なるほど、そういう事ね。

ようやく謝罪の理由が理解できた。

で、もって、


「たしかに酷いですね」


俺は目の前で頭を下げる国王様に向かって直球にそう告げる。

またオルトス父さんに止められると思ったが…………、


「あれ?オルトス父さん、怒らないの?」


「王の失態すら肯定するようになったらその国は終わりだ」


オルトス父さんは目を伏せ、俺の無礼は聞き流す構えに入る。

へー。どうやらうちの大黒柱はただ権力に媚びるだけの犬って訳でもないらしい。

なんかちょっとカッコよく見えてしまった。ムカつく。


まぁ、でも、そんじゃ遠慮なく。

yafooコメントで鍛えられた俺の容赦ない悪口を喰らうといい。


「大人気ない。言い返されたら言い返す、発想が子供。

普通に親ガチャ失敗。娘が思春期に入ったら絶対、嫌われるタイプ。

毒親。不義理。不誠実。100:0でアンタが悪い」


好きなように言えと言われ(※言われてない)、久しぶりにタカが外れた俺は言いたい放題ぶち撒ける。

しかし、流石にアウトだったか、横からオルトス父さんの手が俺の口を塞いだ。


「お、おい!流石に言い過ぎだ!バカ!」


「よ、よい。やめるんだ、オルトス」


「で、ですが、陛下…………」


「全て其方の息子……いや、ウィルミスの言う通りだ。離してやれ」


「か、畏まりました、陛下」


オルトス父さんはそう返事をすると、国王様の言う通り、俺の口から手を離す。


うーん、こう素直に反省されてもヤフォコメ民としては嬉しくないんだよなぁ。

もっとガッと来てくれた方が美味しいのに。


「まだ余に言いたいことはあるか?ウィルミスよ」


萎れた顔でそう言う国王様。

俺の悪口を正面から受け止める構えだ。


「…………………………………………。」


はぁ、クソ…………。


「まぁ、でも、わざわざそれを言いにきて、謝りにきたのは感心しました」


戦う気のない相手を一方的に殴るほどつまらないものはない。

俺は自分から負けを認めて、素直にすごいと思ったことを言う。

多分……というか、絶対に俺だったら謝りにこれてないだろう。

なんだかんだでなかったことにしてしまったはずだ。


「そういうとこは立派……だと思います」


「っ!」


果たして、人の褒め方ってこれであってるのだろうか。

今思えば、これは俺が初めて他人を褒めた瞬間かもしれない。


「ハハッ、そうか。余は立派か」


国王様は余程、褒められたのが嬉しかったのか笑顔でそう告げる。


「…………謝りにきたことに関して言えば、ですけどね」


「全く。お前は陛下に対して、何様のつもりだ」


オルトス父さんはそう言って俺の頭にゲンコツを炸裂させる。


「イテッ」


だから好きに言えって言ったの(※言ってない)、オルトス父さんじゃん。

まさか、こっちの親も毒親か?


「それでウィルミスよ、セレスに関してだが…………、」


話にひと段落ついた段階で国王様は話を本題に進める。

しかし、それに関しては話し合いをするまでもない。


少し想像とは違ったが、あんな将来有望株を逃してたまるか。


「セーレは俺が助けに行きます。お父様(※国王様)は王宮に帰って茶でも啜っててください」

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ダブル転生ーなんか転生したの、俺だけじゃないみたいですー 蒼く葵 @aokaoi

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