第8話夢子
もう随分あっていない。もう6ヶ月以上 いや1年近いか。最近 じゃあ夢子さんの顔を忘れてしまいそうだ。すぐ会えるだろうと思っていたのに…おそらく、もう会えないだろう二度と。
今の職場でも残念ながら 出会い らしい出会いがなかった。通い始めた頃はすごく良かった。職場に出かけるたびに 何かがあった。あんなに 田舎なのにいろんな出会いが結構あった。モデルみたいに綺麗な人との出会いや、病院事務員で一番の器量良しの女性から話しかけられたこともあった。あの後すぐにクビにならなかったらきっと彼女とは付き合うことになっただろう。あんなに綺麗な人から声をかけられることなんて…。もう2〜3日 あそこで仕事ができていたらきっと彼女と付き合っただろうと思う。仲良くなれそうだと思った途端に、30分後にはクビになっていた。なんであんのタイミングでクビなんだ。あまりの間の悪さに笑うしかなかった。あの後は全く何もない。出会い さえない。本当にもう びっくりするほど何もない。こんなに何もなかったことはないというぐらい 本当に何もない。人生にはこんな時もあるんだな。全く 驚かされる。
あまりに 何もないので 以前恋の兆しと言うか、出会いの兆しのようなものがあったところにでも行ってみようかと思った。
素敵な出会いがあるかもしれない。
TSUTAYA
梅雨らしい天気だった。朝から 薄雲が日差しを隠していた。いいことがないかなと思って TSUTAYA に読みかけの本を読もうと出かけてみたけれど、特にいいことはなかった。その気になるような子がいなかった。というか 雨が降っていたせいか 女の子がいなかった。本当に雨は嫌だ。雨にはもううんざりだ。梅雨なんてクソだ。
家に帰ってやりかけの仕事でもやろうと思った。普通はそんなにいいことなんてありゃしない。それが普通だ。
なおみ から電話が来た。
春日井駅で待ち合わせた。JR の駅で会うなんて 初めてだ。
「JR なんて使うの?」
「定期券を持ってるのよ。」
「職場に行く時に使ってるの。」
昔の恋人が人妻になり一宮に新築を建て、住んでいる。
「どこに行く?」
「4時に子供を迎えに行かなきゃいけないから、それまでに間に合うようなところにして。」
「もう幼稚園なんだ。」
「そうだよ。」
その子はなおみの長男で、一度家の近くの公園であったことがあった。なんで昔の男と会うのに子供を連れてきたりするのか全くわからなかった。まあ子供が一緒ならおかしなことはしないだろうとでも思ったんだろう。俺も最初からそんな気はなかったのに。
桜が綺麗だということで 犬山城から円明寺という城の近くの花見スポットに行ってみた。春は花見とかあってやることが多いので便利だ。
やけに長い階段を登らされて 桜を見てみたけれど、大したことはなかった。家の近くの方がよっぽど 桜が咲いていた。ネットの情報なんてあんまり当てにしない方が良かった。
「がっかりだったな。」
「本当だよ、あれっ ぽっちじゃ 家の近所の方がずっとましよ。」
久々の再会ということで店は予約しておいた。4時には子供を迎えに行く ということなので少し早めに店に入った。小さな店だったが店の場所はすぐにわかった。なおみはとても喜んでいた。
「誰かに聞いたの?」
「ネットで探した。」
「いい店ね。」
「そうだな、小さいけどな。」
「高くない?」
「それは大丈夫、安いからここにした。」
「ならいいけど。足りなかったら言ってね。」
「大丈夫だよ。」
「食事はまあまあ だった 特に悪くも良くもなく。ランチのお値段からいってリーズナブル だった。」
なおみは 家の場所を教えたくなかったらしい。近くまで行っても家の場所は教えなかった。
もうそんな気はないから大丈夫なのになぁと僕は思っていた。
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