6.約束
「……で、ミェルさん。仕組みは何となくわかりましたよ、つまり私を帰すには大量の贄と魔力が必要だから、今すぐに帰すことはできないというワケですよね」
ミェルさんに流されかけていた雰囲気を一旦仕切り直して、結論を迫った。
「ん〜そうだね、君は物分りが良い!……ただ、『大量の贄』とは少し違うかな」
窓を閉めてソファに掛け直し、すっかり熱を失った紅茶で彼女は口を潤した。
「贄の希少性が高ければ高いほど、贄としての効力も上がるんだよ。私の転移魔術はそれこそ途轍もなく高度なものだから、要求される贄と魔力も相応になる」
「えっと、つまり……単純に贄を集めるだけじゃダメってこと?」
「そうだ。単に虫やら小動物やらを代用して贄にしようものなら、それこそこの辺りの森の生態系を壊滅させるレベルでかき集めても足りない。何年かかることやらね」
それだとマズイだろう?とミェルさん。
テーブルに出しっぱなしだった転移魔術について纏めた本のとあるページを指し示す。
「これが転移魔術に必要な贄だ。手に入れるのに苦労したなぁ」
リストに書いてある贄。
……ミェルさんはお世辞にも綺麗な字を書く人ではないので名称までは分からなかった。
———だが、魔術素人の私でも理解できたことがある。
『転移魔術』は、ものすごく高度な魔術なんだろう。
彼女の倫理観や人間性はともかく、築き上げたミェルさんの才能と実力は間違いなくホンモノであり、そんな彼女が入手するのに苦労した贄。
「ミェルさん…手に入れるのに、どれくらいかかりましたか」
「たしか〜……五年とか?だったかな?」
……絶望した。
私は今、十六歳の高校二年生。仮に五年後に帰れたとして、二十一歳。本当なら、このまま順調に大学に行って、何事もなく卒業して、就職して、家庭に入って……それが五年も空白があることで、すべて順序も順番も狂うことになる。
淡く抱いていた普通の人生設計が、あまりにもあっさり瓦解した。
私、どうしよう。
「月音ちゃん」
呼ばれて、無意識に下げていた顔を上げる。
「贄は私が責任を持って、手中に収めよう」
「当たり前ですよ。全部責任持って、絶対に私を帰してください」
「もちろん。君を呼び出したのは、私。そして知識欲と野望達成のために、今後君を研究させてもらう」
「……今更ですよ」
「ああ。……そして、君を帰すのも私だ。君が帰れるその時まで、私が責任を持って君の安全を保証する」
顔を上げた。
真っ直ぐに私を見据える彼女と目が合った。
そこには怪しさも妖しさもなりを潜めていて。
「約束してください。必ず安全に私を帰すって」
「……ああ」
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