恋愛相談
メラミ
とりあえず、焼き鳥……?
ヨリトはルイカから手紙を直接受け取った後、ジュンと会うことにした。
ジュンがルイカの気持ちに気づいていたのはいつからだったのだろう。
また四人で会うことがあるならその前に俺は――。
俺はルイカの気持ちを受け入れたい。
「やっぱりお前が俺に言った言葉は正しかったみてぇだな」
ヨリトはジュンに向かって少し憤りのこもった口調で話しかける。
「まあ、落ち着けよヨリト。あの言葉を本気にするなよ」
――ルイカはお前のことずっと好きだと思うよ。
ちょうど恋愛ものの三人芝居を演じている最中、ジュンから言われた一言が過った。
またいつか会おうと言って会いにきてくれた舞台上の彼女とルイカが重なった。
ジュンがルイカが自分に会いたいと言っていて、楽屋裏に誘っていたこと。
ジュンはやたらと先回りして物事を考えている。正直悔しかった。どうして自分はこんなに恋愛に鈍感なのだろう。待っているだけじゃダメなんだってこと。
ヨリトは手紙の内容を知り、ジュンが話していた予感は的中していたことを悔やんだ。先に彼に越されたことを悔やんだのである。
「お前には敵わねぇな、ほんと」
「敵わない? ライバルだと思ってたの?」
「自覚なかったのかよっ!!」
どうもジュンがハツと平々凡々新婚生活を満喫しているのかと想像すればふたりはお似合いだと思うが、俺とルイカの場合はどうなのだろう。想像がつかない。
二度失恋した俺が彼女のまっすぐで力強い言葉を手紙で受け取り、心からGOサインを出す勇気が持てるのか。なにを今更迷っているのだろう。
だから結婚に踏み切ることができたジュンにアドバイスを貰うべく、今ここに呼び出したのである。
「とりあえず、食べに行こうか」
「ん? どこ行くの?」
「つまみの旨い店。同僚の行きつけのいいところがあんだ」
「役者冥利に尽きますわなー」
飲屋街の一角に串焼きだけで酒を提供する店がある。
ヨリトはジュンをその店に誘った。
ふたりはカウンター席に座る。
店員のおじさんがヨリトの姿に気づいて声をかけてくれた。
「おおヨリト君、この間の芝居良かったよ〜」
「おっちゃん。とりあえずビール二つね」
「あいよー」
「な、なんで焼き鳥?」
「焼き鳥だけで酒が進むくらい美味い店なんだよ。とりあえず、トリ食べてけ」
ヨリトはそろそろ本題に入らなければと、一呼吸入れる。
ジュンは恋愛相談に乗ってくれるだろうか?
「で、俺はルイカの手紙をちゃんと読んだ。読んだ上であえてお前に相談したいことがある」
「……うん」
「お前がハツと結婚しようと覚悟を決めたきっかけってなんだったの?」
「はあっ!? い、言う訳ないだろそんなこと」
「じゃ質問変えるわ。俺はルイカから告白をされたってことだろ? どーやったら上手く付き合えるんだ? もう振られるのは嫌なんだ。失敗したくねぇ」
「お前そんなに臆病になるなよ」
「……――!?」
やはり相談相手を間違えたか。ジュンは真剣に考えてくれているのかもしれない。
だが、自分が臆病だなんて一度も思ったことがなかった。
意外な言葉を受け取り、困惑した。
「はい、ぼんじり、皮、塩ももとタレもも2本ずつね」
無言で店員から焼き鳥を受け取る。
「ほら、お前が食えって言ったんだろ? 食べなよ」
「……お、おう……」
ジュンに促されてぼんじりを一口齧る。
「お前高校時代もソロ活してる大学時代も芝居一筋だったもんな。偉いよ……」
焼き鳥を咀嚼しながら親友の言葉に耳を傾ける。
「俺も学歴社会から抜け出せないから頑張って一流企業に入ったけど、ハツの支えがなかったら心の拠り所がなかったかもしれない。そんぐらいしんどかった日もある」
「…………」
ヨリトはビールを喉に流し込む。
彼は彼なりに悩んでいたんだな。
「そっか……お前、俺が臆病に見えたなんてよく見抜けたな。俺芝居しているとよく周りが見えてないって言われんだよね。没頭するのはいいことだけど現実を見れば不器用なんだよな……生きることに」
「生きるのが下手ってこと?」
「まぁそういうことだな」
「逆プロポーズ……っていうのかな。その手紙」
「いやいや、俺から面と向かって言わなきゃダメだろ、絶対」
――俺と付き合ってください! と。
「とりあえず頑張れよ。それしか言えないよ」
「おう……今日は付き合ってくれてありがとな」
とりあえず相談に乗ってくれた彼に感謝する。
ヨリトはジュンの純朴で真っ直ぐな言葉に励まされた。
ルイカからの手紙を受け入れる覚悟は決まった。
手紙にはルイカの連絡先が明記されている。
ジュンは彼女へ連絡を入れるその勇気を後押ししてくれた。
恋愛相談 メラミ @nyk-norose-nolife
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