乙女の祈りは、誰の為に

アキノナツ

1、星祭り(1)

眼下の風景をぼんやり眺める。

青い空の下、いつもの賑わい以上の華やかなざわめきに包まれていた。


あちこちに灯りや飾り付けが施され、屋台も並んでるようだ。

王都の中心で『星祭り』の準備が急ピッチに進んでる。

ここ暫く街は前夜祭で賑わっていた。


本祭の『星祭り』の儀まで、国は落ち着きなく祭りへの祝福と不安を覆い隠すように賑やかに過ごすのだ。

不安に思っているのはごく一部だが…。


今年もちゃんと祈りが捧げられて、無事『星祭り』の儀式が終わる事を国民の大半は疑っていない。


明るい空に時々光が閃く。

スーッと流れて消える。

明るい空では、よく見なければ『流星』は見えない。


普通は見えないモノらしいが、私の目にはしっかりと見える。

んー、見えるというか感じられる。


『星の神子』が居れば国は安泰。

その神子が私だ。


数年前までは私もあそこにいたのに、今はこの塔から出られない。

私の故郷でも同じような祭りをしていた。今もされているだろう。

司祭様は、私の力が弱いから祈り続ける必要がありのだとか……。


多分、ウソだと思う。

祈りを捧げる者の喪失を恐れてるのだ。


私の前の『星の神子』さまは、急な病に倒れ衰弱して行く中、次の神子が見つかるまでと頑張っていたようだ。


失いたくない。

手から離さず。

だから、流行病で亡くなったという親の死に目にも会えなかった。田舎町の墓所にさえ行けない。

馬車で行く距離だ。


何年もここに居れば、段々とここの事も分かってきた。


『神子』はこの塔に居さえすればいい。

そういう事になっている。どうしてなのか、元々そうだったのかは、分からないが、私はそう感じていた。


歴代の神子さまはそれなりに色々と手は講じていたようだ。協力者もいたようだが、よく分からない。

私だって、成長していく過程で多少は知恵が回るようになって、まわりくどい言い方で少しずつ情報を集めてるのだ。


先日、漸く前の神子の手記を手に入れた。

書庫の隅に他の本に紛れ込ませてあったが、私には分かった。同じ匂いがしたから。

感覚の話なので、誰かに分かってもらえるような言葉に出来ないのは、もどかしい。


こんな探るような事をしなければならないのは、それは単に私が前の神子さまから継承してないからに他ならない。


私がここに来たと同時に、前の神子さまは身罷った。そして、ここにきた私は幼過ぎた。

だから、もし言葉を交わせる事になったとしても私に理解できたかどうか分からない。


神子さま自身が何かを書き残してるかもしれないが、私が知る事はなかった。多分だが隠されてるかもしれない。だから、周りに悟らせないように探していた。

自力で見つけなければならないと思っていた。神子だけが分かる場所なのかも知れない。


ここに来てから、神子の事については最低限の事しか教えられていないし、教育さえも。

兎に角、私は従順である必要があった。

周りに信頼され油断を作る必要がある。


何故なら、どこに行くにも教会の人がついてくる。

この塔の中でさえ…。

この状況を変えなければと頑張ったお陰か、徐々に塔の中は比較的自由に動けるようになった。

書庫の中までついてきていた者が居なくなった事が、幸運をもたらした。

書物は私に色々な事を教えてくれた。

そして、先日手に入れた手記に秘密の道具が隠された場所が記してあった。


本儀式の迫る中、準備に手がいるのか、私の周りに人が少なくなっていた。

そして、今日はこうして窓辺で外を眺めていても、誰も何も言って来ないし、姿もない。


秘密の道具を手に入れたなら、両親と楽しんだあのお祭りをまた体感できるかもしれない。


やるなら、今日。


『星祭り』の儀式。祈りの儀式までに戻ってくればいい。

ちょっとい行って、あのバンジョーとバンドネオンの音楽を聴いて、踊って、祭りを楽しんでみたい。

あの時は、踊ろうと父と母の手を取って、踊りの輪に入ろうとしたところで大柄な男たちと司祭服の人間に囲まれたのだった。


前髪を上げて額を見られた。

母には髪を上げないように言われてたのを思い出して、大人の手を払い除けようとしたのに、その手を掴まれ、両親とはそれっきり…。


司祭が「星読みの反応が悪くて時間がかかったよ」と言ってたので、もしかしたら、見つからずいれたかもしれないが、時間の問題だったか…今になっては、何も分からない。


分かるのは、私は、見つけられ、この塔に閉じ込められている。


周りに人が居ないのを確認して、『神子の部屋』、今、私が過ごしている部屋。神子は皆ここで過ごしてきたようだ。

その壁を探る。この辺りに隠し扉があるらしい。神子の血にしか反応しないのだとか。


扉が開いた。

小さな扉。レンガぐらいのサイズの隙間に意を決して手を入れた。

鈍色の紗の布と古びた本があった。

本は、今までの神子とこの国の関わりについて包み隠さず書かれていた。


この国に降り注ぐ星から守るのが『星の神子』の祈りで、祈りの儀式をするこの塔に仕掛けがあるらしい。

初代の神子と祭司という職にあった魔法使いか何かの天才が作ったのだとか。

神子のこの地と人々を守りたい気持ちがこの魔法使いを動かしたらしい。


後にこの魔法使いは、この『祈り』だけで保たれてる国が健全とは言えないと説いたが、その時の王様は応じなく、魔法使いを追放してしまったらしい。


『星の神子』は珍しい魔力を持っていたらしい。それは血に由来してるようで、その血脈に星のようなアザを身体のどこかに持った者が生まれるとあった。生まれ変わりなのかも知れないとされている。


まるで血に縛られているようだ。


そうか…。母は知ってたから額の生え際の赤い小さな星のようなアザを隠すように言っていたのだ。


私が星の神子の末裔なら、魔法使いの末裔も存在してるらしい。それらは『血』ではなく『知』なのだそうだ。


歴代の神子たちは、その『知』を継承した者たちと手を取り合って何かをしていたらしいのだが、その辺りは抽象的過ぎて私には理解出来なかった。書いた神子たちが理解出来てなかったのかも知れない。


ただ『知』の者とはどういった者なのだろう。この『知』の者と私は接触していない。

そして、本の記載の最後付近には、全ては『知』の者がって、丸投げな書き方だもの。

接触してなければ、何も分からない。


もう! しっかりしてよね、『星の神子』さま達!


本を再び隙間の空間に押し込んで扉を閉じ蓋をした。


私が欲しかった秘密の道具だと思うのが、この布だ。


ふわりと被った。







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