真夜中の居酒屋【KAC20246】

たっきゅん

真夜中の居酒屋

「はぁ、今日も仕事疲れたぜ~。こんな時は……どうよ一杯」

「おいおい。まだ月曜日だぞ」

「いいんだよ。今週は水曜日に休みがあるから」


 くたびれたサラリーマンが二人並んで人混みを歩いている。その足取りは疲れたと言いながらも月曜日ということもありしっかりとしている。


「……あの右側、リーゼントの方が仲介役だったな」

「ええ、左様でございます。オールバックの方は【表】の同僚といったところかと」


 そんな二人を監視している怪しい黒ずくめの女がいた。こう文字にするとチープだがそれは私、黒崎シノブだ。そして言葉遣いとは裏腹に派手なギャルにしか見えない舎弟を連れて私は電信柱の陰から様子を窺っている。


「仲介屋との接触は厳禁、全てのやりとりは例の居酒屋で隣の席に座り符丁で話す。間違いないな?」

「間違いございません。ですが、心配ならあの一族とのコンタクト方法をブーグル先生にもう一度尋ねましょうか?」

「いやいい。ブーグル先生はなんでも答えてくれるので信頼しているが、頼りすぎるのはよくないからな」


 私はスマートフォンを見つめて、ブーグル先生をこれ以上頼らないことを決意し電源をオフにした。それはあの一族が電子機器を嫌っているためという理由もあった。


「―――っ! やつら例の居酒屋に入っていったぞ!」

「お嬢、私らも行きましょう」


 私たちは仲介人に依頼していたあの一族とのコンタクトができたか結果を聞くために後を追って居酒屋の扉をガラガラと開けて中に入った。


「いらっしゃいませ~。お好きな席へどうぞ」


 そんなどこの店でも聞く台詞に従い、ガラガラの店内で男たちの横へと私たちは座る。定員さんから「うわぁ~」という心の声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


「いやー。オレ、お通しって苦手だわ。普段食べない料理を食べられるのは楽しいけどよ、好きなものを食べたいって気持ちがどうしてもな」

「じゃあなんで居酒屋入ってるんだよ」

宮内庁くないちょうの知り合いがここの料理がうめーって言っててな、前に一度来たことがあるが旨かったからお前を誘ってみたんだよ」

「っ!!!」


 あの一族の使う武器を私たちが座ったのを確認してから口に出すということは次の言葉が結果ということだ。私は逸る気持ちを抑えて男の次の言葉を待つ。


「まあ、ここは居酒屋だ。席に着いたらまずは……」


 オールバックの男がニヤリとしながらメニュー表を広げる。


「はっトリあえず、注文しますか」

「だな! すみませ~~~ん! 生二つ!」


 〝服部会えず〟その言葉を聞いて私は項垂れる……。裏社会の人間でも忍者を見つけることはできなかったのかと。


「おっ、この前のねーちゃんじゃねーか。今日は一緒に飲まねーか?」

「あ、いえ結構です」

「つれねーな。けどよ、とりあえず俺の実家はすげーから話だけでも聞いてくれや」

「女嫌いのお前が口説きにいくなんて珍しいな」

「すみませ~~~ん!!! 生二つ追加で!」


 うるせーと言いながらも気心しれた態度でどつき合う男二人は会社だけの付き合いというよりは親友に見えた。それから二人の会社での話を上司の愚痴から給料のことまで私は大人しく聞いた。


「お、来たぜ。―――こほん。それじゃオレ、服部半蔵の子孫が一人、現代の忍びが……って、なんで泣いてるんだよ!」

「……ほんもの? ほんとうに忍者なの?」

「ああ。符丁、俺が服部だからああなった。すまんな……。すまんついでに忍術も使えないんだが、うちに忍具はいっぱいあるから今度家に来いよ」

「……私、シノブという名前を親から貰って、忍者はかっこいいと憧れて二十歳まで生きてきたの。けど、忍者なんていないんじゃないか……そんな不安に襲われてブーグル先生を頼ったんだけど……、まさか本当に服部一族の末裔に会えるなんて思わなかったの―――だからこれは嬉し泣きだよ!」


 思っていた忍者とは違ったけどに憧れた忍者に会えた。トリあえず今はそれだけで十分だと私は思った。この服部さんから忍術の使える忍者を紹介してもらうのが次の私の目標になったのだから。




― 完 -

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真夜中の居酒屋【KAC20246】 たっきゅん @takkyun

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