第30話 あのマークの正体って?


「戸波海成くん、少しお時間いいですか? 」


「あ、はい。何か用ですか? 」


「用ってほどじゃないですが、少し男同士の話ですよ。君とは仲良くなりたいので 」


 こんな顎ひげ野郎が丁寧な言葉で男同士とか言っている。

 色んな部分が矛盾していて気持ち悪い。


「あーえっとどこで話します? 」


「そうですね、少し離れたところでもいいですか? 」


 池上が指差す方には、草原の一端に大きな岩像がある。

 それは何をモデルに作っているのか全く分からない形をしていた。


 ここで断るのも怪しい気もするし、断る理由が思いつかない。

 相手の考えも全く読めない。

 誘いに乗ってみるのも一つな気がするし。

 とりあえず、草原からは立ち上がった。

 

「あーそうですね…… 」


「ダメです!! 」


 俺の言葉を遮って、紗夜さんが断りを入れた。


「相羽紗夜さん、そんな警戒しないで下さいよ。僕はただあなたの後輩、戸波海成くんに戦闘のアドバイスをしようと思っただけです。ここまでの戦闘で少し思うところがありましてね。彼がそれで強くなるのはあなたにとって悪い話じゃないですよね? 」


 たしかにここへ来るまで池上が焼き払えなかった残党は何体か倒した。

 ヤツは本当にアドバイスをしようとしているだけ?


 いや待て、さっきの紗夜さんとの話で結論づいたじゃないか。

 独立ギルドは自らの利益のために動くと。


 俺を強くするのになんのメリットがある?

 否、そんなものはないだろう。

 あるとしても、ここで俺を強くして使い倒してやる的なことだ。


「いいえ、悪い話です。すみませんが、第2支部は独自の教育プログラムがあるのでそれを崩されては困ります。その場合は少なからず、久後代表が黙っておかないと思います。そんなことで?と思われるかもしれませんが、あの人めんどくさい人ですので 」


「S級冒険者の中で最強と謳われる久後渉……ですか。あの人を敵に回すとこの業界では生きていけませんからね。分かりました。彼の指導は控えさせて頂きます。しかし仲良くはしたいので、いつでも声かけてくださいね 」


 池上は俺に満面の笑みを見せた後、背を向けこの場を去ろうとしている。


 助かった。

 それほどまでに久後さんの名前は影響力があるのか。

 これから俺もバンバン使ってやろう。


 そして俺を助けてくれた彼女には、池上が去ってからちゃんとお礼を言おう。


「あっ! それと…… 」


 池上がそう言いさした後再びこちらへ振り向いて、


「戸波海成くん、君の眼には一体何が映っているのでしょうか? 」


 そう問いかけてきた。

 いや、問い質してきたと言う方が正しいか。

 あの無表情な顔を見ると、そう言わざるを得ない。


 怖い怖い怖い怖い怖い――


 俺の心は一瞬、その言葉で埋め尽くされた。


 これは冒険者として、ではなく人として。

 人間性の部分で感じたものだ。


 どうする!?

 これは何かしらを気づいているっぽい。


 あれは池上の名前の後にマークがあるってことを知ってしまった人に対してかける言葉だ。


 俺と紗夜さんの会話が聞こえていた?

 いや、かなり小さい声だったし普通の人に聞こえるわけがない。

 もしかしたら何かしらのスキルを使って?


 それともマジックブレイカー関連について何かバレたのか……。


「いえっ! 気にしないでください。では少し休んでから先に行きましょう。私と浦岡はこの辺りを探索に行ってきますね 」


 今度は本当に背を向けて去っていった。


「はぁ……びっくりしたぁ 」


 紗夜さんはその場でへたり込んだ。


「ですねぇ…… 」


 おれも同時にへたり込む。


 一方同じように座って休んでいた本部冒険者組は勢いよく立ち上がって、


「池上さん、浦岡さん、俺たちも探索ついて行っちゃダメですか? 」

「ぜひ勉強させて下さい! 」


 輝いた目で懇願している。


「ええ、いいですよ。ただ危険だと判断すれば引き返しますからね 」


 池上は彼らの希望を快く受け入れた。

 相変わらず浦岡は物静かで特に返答もしていないが、反対している様子もない。


「「やったー! ありがとうございます! 」」


「紗夜さーん、海成くーん! ここで休んでて下さーい! さ、行きましょう 」


 池上は少し離れたところからそう言葉を放った後、返事を待たずに森へ向かっていった。


 彼らの姿が見えなくなったところで、


「海成くん、さっきの話の続きだけど…… 」


 紗夜さんはそう切り出してきた。


 そうだ、話すなら今しかない!


「紗夜さん、今のうちですね。さっそく本題なのですがさっきのマークの話、あれは池上と浦岡2人ともについていました 」


「……!? やっぱり。そのマークがついているものを私達は『ギルティ』と呼んでいる。名前のとおり罪を犯したものに与えられるの。ここで言う罪というのは一つだけ 」


「一つだけ? 」


「ええ。それは……『殺人』、しかもこれは冒険者にしか適応しない。つまり一般の人を殺してもこのマークは現れないの 」


 それを聞いて、さっきアイツから感じた恐怖の意味が分かった気がする。

 あれは殺人鬼のそれだ。

 だから俺は池上から、人としての怖さを感じたのか。


 待てよ……?

 それならさっきアイツらについていった本部の2人はどうなる?


「紗夜さん!! あの2人が危ないんじゃ? 」


「うん! 私達も後を…… 」


 ドカンッ――――


 突然の爆発音。

 空には無数の煙が上がっている。


 あれはみんなが向かったはずの方角からだ。

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