第6話 珍しいのにハズレ職業だってよ

「失礼しますっ!」


 西奈さんに続き、俺はその会議室に足を踏み入れた。


 するとそこには会議室用のスタッキングテーブルが1つ準備されており、3人の重役っぽい人達が横一列に並んで腰をかけている。


 そしてその人達の視線の先には2つの椅子があるが、そこに座れということだろうか。


「やぁやぁ西奈くん、急にごめんねっ!」


「いえ、専務。 ちょうど試験も終わったところでしたので」


 3人のうちの真ん中に座っている優しそうな顔をした40代くらいの男性が西奈さんに話しかけた。


 あの真ん中の人が安田専務って人か。


「まぁまぁ2人とも座ってくれたまえ」


「わかりました。さっ戸波さんどうぞどうぞ!」


 西奈さんは俺の背中を押し、席へ誘導する。


「おおっ! 座ります座りますっ!」


 ちょうど席まで移動し終えたため、


「失礼しますっ!」


 そうお辞儀してから腰をかける。

 それに続いて西奈さんも俺の隣の席に座った。


 それからすぐに両端に座っている2人が俺をジロジロ見るなり、真ん中の専務に耳打ちをしている。


 おい君達! 俺の顔を見て、悪口言ってるんじゃなかろうね?

 平均的な顔だとかどこにでもいる顔だとかモブ顔だとか……って誰がモブ顔やねん。


 いやほんと耳打ちって悪口言われてる気がするからやめてほしいな……。


 するとそんな状況もすぐ過ぎ去り、専務の一言でことが進むことになる。


「え〜今ここにいる3人の鑑定士が君のことを鑑定したんだが……」


 え、鑑定士ってなんだ?

 3人の鑑定士って君ら重役三人衆のことか?


 そのまま専務は続けて、


「西奈くん、君の言うことは本当だったんだな。彼は世にも珍しい武闘家という職業だ! 彼女の他に2人の優秀な鑑定士を連れてきたが、同じ結果になった。」


 そう言って両隣のスタッフの肩を叩いている。


 なるほど、3人の鑑定士とは専務の両隣と西奈さんのことだったんだな。


 たしかに擬似ダンジョンで唐突に現れたウインドウ画面には武闘家になりましたとか書いてあったような。


 で、その武闘家って珍しいみたいだけど、もしかしてチートな職業だったりするんだろうか?

 たしかにあのおじさんもぶっ飛ばせたし、強い職業だという自負はある。


「それで専務、彼の扱いですが……」


「あぁそれだが、第2支部担当にしようかと思う」


 なんだか俺の話が勝手に進められているみたいだ。


「あ、あのっ!!」


 俺も話に交ぜてくれ。

 そんな気持ちでつい割り込んでしまった。

 しかし自分の話が勝手に進むのは気持ちのいいもんじゃない。


「あぁ、戸波くん何か質問かね?」


 専務が俺に質問を振ってくれた。

 もちろんいっぱいあるさ、聞きたいことなんて。

 でも唐突だったため今頭に浮かんでいるものを口にした。


「あの、武闘家ってそれ良いものなんですか? 珍しいって仰ってましたけど」


「えーっとそうだね……。ど、どうかな?」


 そう言って専務は右側にいる青年鑑定士の肩を叩いた。

 つまり丸投げというやつである。


「えっ!? あ、そうですね。ステータスも平均的というか伸びしろもなんと言いますか……。スキルに関しても覚えられるものに限りもあるというような……」


 結局彼の答えには俺の聞きたいものは何もなかった。

 ただ分かったのはチート的なものではないということ。


「あ、そうですか 」


 なんとも拍子抜けである。


「えっと戸波くん……つまりだね、君の職業はまだ未知の力が隠されている可能性も……」


 その言葉を遮るように、今度は左隣の女性鑑定士が専務の肩を叩き、彼に向かって首を横に振っている。


 え、何その反応。

 なんの横振りよそれ。


 それから専務は言い直すように咳払いをし、


「戸波くん、鑑定の結果……ハズレ職業というやつにあたるようだ。鑑定士3人の保証付きでねっ!」


 専務は気を遣っているのか、俺へ無理した笑顔を向けてくる。


「は、はあ……」


 俺は最後の余力で力ない返事をして、西奈さんと会議室を後にした。



 ◇



 その帰り道、西奈さんから


「今日から冒険者ですよーっ! 先輩っ!」


 先輩? なにその素敵な響きっ!? しかし疑問が浮かぶ。


「その呼び方嬉しいけど、本当は西奈さんが俺の先輩じゃないんですか?」


「い〜えっ! 他の人ならそうだけど、あなただけは違うんですっ!」


「え、それはなぜ?」


「それはですね〜。ひとつ、先輩は私の故郷の血が混じってるのです! そしてふたつ目はこの世界の単位で表すと私は24歳、つまり先輩の歳下にあたるのですよ! 結果、先輩は私の先輩というわけです」


 西奈さんは楽しそうにスラスラと説明をしているが、俺より西奈さんが歳下だったことしか分からなかった。


「ですので、先輩は私のこと、瑠璃るりって呼んでくださいねっ!」


 うん、瑠璃か。

 めっちゃいい響きだ。

 これから呼びまくっちゃおう。


「わ、分かったよ、瑠璃」


 にしても今故郷が一緒って言ってたけど、俺は東京生まれ東京育ちだと思うんだが?

 うーん、気になるけど、今日1日の情報量が多すぎて頭破裂しそうだ。

 結局冒険者のことも分からなかったし。


「それにしても先輩、武闘家ですよ!武闘家!」


 西奈さん……いや瑠璃は俺の傷を掘り返してくる。


「うぐっ!」


「え、どうしました!?」


 少し屈んで痛いフリをした俺の顔を彼女は覗き込んできた。これがまた可愛いのだが。


「いや、武闘家ってハズレ職業なんでしょ?」


 まだ冒険者として何をするかも分かっていないが、その大切であろう職業がハズレと聞きゃ誰だって悲しい。


「あー大丈夫です! あくまで今は、ってだけですよ」


 瑠璃は少し前かがみな姿勢で俺を見つめており、それがとても可愛いのだがその意味深なセリフどういうことだ?

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