第4話 悪者からヒロインを助ける的な
あのおじさん、拳銃出しちゃってる!?
現物の銃初めて見た、すげぇ……。
「おいっ! これ見ても生意気な口叩けんのかよ!」
俺はさっきからおかしい。
突如ウインドウに現れたパッシブスキル【 不屈の闘志 】という言葉の後から相手に対して恐怖心を感じないし、反射速度が上がっているのかおじさんの動きが目に見えて分かるのだ。
これは感覚的に予知とかの類ではなく、動体視力的なものだと思う。
「戸波さん、足を引っ張ってしまってすみません。なにぶん私は戦闘スキルを持ち合わせていないんです……」
戦闘スキル?
そんなもん俺だって持ち合わせてないよ?
あるとしたら前の会社で培った謝罪スキルくらいだろう。
自分が悪いと思っていなくても反射的に謝ることができる万能スキルなんだぜ。
とか思いつつも現状あのおじさんに対抗できているということは、スキルどうこうは置いておいても彼女の言う『戦闘』とやらはできているのだろう。
それならば、俺のすることはひとつだ。
彼女を守る――
「西奈さん、大丈夫。今俺、あの人の動き見えるみたいなのでなんとかなりそうです」
「すみません、ありがとうございます」
そう言って彼女は本格的に俺の背後に隠れる形をとった。
「だからさぁ〜よくそう何度も俺のこと無視できるよなぁ!? この拳銃が目に入らねーの!? 撃つよ? 本当に撃つからな?」
大丈夫だ、今の俺には見えている。
単純に動きだけでなくやつの緊張した息遣いや震えている手、引き金にかけている人差し指の動き。
ここまで分かるのならば撃つタイミングだって分かるはず。
「撃つ勇気があるなら撃てばいい! 」
さっきと違って強気な自分が怖いですらある。
気の持ちようが変われば、物言いも変わるものなんだな。
「くっそ――! 生意気なやつめ! うお――っ!」
おじさんは勢いに任せて引き金を乱暴に引いた。
バンッ――
銃口から放たれた鉛の玉。
やつが引き金を引いた瞬間に彼女を抱えて避けた。
自分でも驚くほどの手際の良さ。まるで自分じゃないみたいだ。
さすがに飛んでくる銃弾が見えるわけではない。
しかし撃つタイミングが分かれば本当に避けられるもんなんだな。
いや、それだけじゃなく妙に身体が軽いってのもあるか。
「ふえぇ……戸波さん……これって?」
西奈さんの言うこれというのは俺の腕の中に彼女がいる、いわゆるお姫様抱っこ状態になっているということだろう。
こんな状況にも関わらず彼女は変な声を出し、顔を赤らめている。
さらには耳まで真っ赤になっている。
その……なんか相手が俺でごめんなさいね。
顔を真っ赤にしているくらいだ。
きっと彼女は会って間もない他人にこんなことされて赤っ恥をかかされた気分だろう。
緊急事態だし、ちょっとだけ我慢して下さい。
「すみません、西奈さん。あなたを守るためです。もう暫し辛抱を」
「い、いえ……。私はずっとこのままでも……」
バンッバンッバンッ――
それからすぐ、おじさんは立て続けに発砲してきた。
うるさい銃声のせいで彼女の言葉が上手く聞き取れなかったぞ。
この状況じゃ聞き返す暇もないし。
まぁ大事なことならもう一度言ってくれるだろう。
「な、なんで当たらねーんだ!」
西奈さんを抱えている分、自分が避けるだけで彼女の身も案じることができる。
これならなんとか彼女を守れそうだ。
あとはあいつを倒すだけ――
俺は変わらずお姫様抱っこ状態で銃弾を避けながらおじさんに近づいていく。
あっという間に距離を縮め、気づけばやつが目前に。
「うおおおおっ! この距離じゃ避けれねーわな!」
そう言っておじさんは銃を向けてくる。
銃口と俺の距離、約数センチ。
さすがにこれは避けられないだろう。
しかしそれはお互い様っ!
俺はやつが撃つよりも早く手刀で銃を持つ側の手首を強く叩いた。
ボキッ――
「グアア――ッ!!」
おじさんは銃を地に落とし、俺が叩いたことで関節の方向が変わった手首を押さえて悲鳴をあげている。
「い、痛ぇ、痛ぇよ! 悪かった、ほんの冗談だ。もう彼女に手はださねーから仲直りしようぜ? な?」
自分の立場が悪くなったと確信してか、即刻態度を切り替えてきた。
その下手に出るために作ったような作り笑いが特に気色悪い。
これじゃ俺の本能は許せないな。
「拳銃放ったってことはそれなりに覚悟があるんだろ? いっぺん死んでこい!」
俺はそう吐き捨てながら西奈さんを片手で抱え、もう一方の拳をおじさんの懐にぶち込んだ。
「ウッ!」
ドカンッ――
やつはものすごい勢いで後方へ吹き飛ばされ、その先にある壁に勢いよくめり込んだ。
これ、さすがに殺しちゃったんじゃないか?
やった後に不安になり、近づいて生死を確認しに行ったけどよかった、呼吸してる。
こんなやつのために俺、人殺しになりたくないし。
「あ、あの……」
西奈さんが声をかけてきた。
「どうしました?」
「お、重たくないですか?」
そういえばお姫様抱っこ、ただいま継続中だった。
非常に申し訳ない。
彼女はずっと羞恥に晒されていたことだろう。
そう思い、急いで地に下ろした。
「長いこと抱えてしまっていてすみません」
こういうことは早めに謝っておくことが1番だ。
俺の謝罪スキルがそう直感している。
「…………」
やばい、彼女から返事がない。しかも俯いているため表情も分からないときた。
「あの……西奈さん?」
とりあえず反応を知りたいため、声をかけた。
すると彼女は突然顔を上げてこちらに走ってくる。
「あれ、西奈さん泣いて……うぐっ!」
え、今何がどうなった!?
パニックになるのも当然、今俺は彼女を抱きしめた状態になっているのだ。
「戸波さん……ありがとうございます。守ってくれて嬉しかったです」
彼女はそのまま俺の胸の中で泣き続けている。
それだけ今回のことが怖かったのだろう。
本当に何もなくて良かった。
チャラチャ〜ンチャラチャチャラチャ〜ン――
すると突然彼女から音楽が聞こえてきた。
その音と同時に彼女はスッと泣き声を抑えて俺から離れる。
そしてポケットからスマホを取り出した。
あ、電話か。ってなんで時代劇みたいな着信音なんだよ。
彼女は鳴り響く音楽の間に涙を拭き、息を整えている。
その後、深呼吸をしてその電話に応答した。
「はい、こちら西奈です」
彼女は電話越しに、はい、あ〜、ええ、はあ、など相槌のみで対応している。
故に会話が全く分からない。
それから1分ほどで話は終わった。
そしてスマホをポケットにしまった後、俺の方を見て、
「戸波さん、本部から呼び出しです」
俺の心の中の返事、それは『遠慮しておきます』である。
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